株式、債券、不動産。全資産が上昇する中、市場をどう見るか?

» 2019年07月30日 12時30分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 米中貿易摩擦の激化から世界経済の減速懸念が強まるなか、米欧の中央銀行は金融政策を緩和方向に切り替えた。7月31日のFOMC(連邦公開市場委員会)では、政策金利の利下げが見込まれている。結果、世界的にリスクを取る動きが強まり、米国株は史上最高値を更新。株式、債券、不動産とも上昇している。

2019年の主要な資産のリターン(6月末)(三井住友DSアセットマネジメント資料)

 主要な資産がすべて上昇するなか、今後の市場をどう見るか。三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストに聞いた。

ーー現在のマーケットをどう見るか?

三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジスト

 現状は、金融相場の状況に似ている。

 金融相場とは、一般には景気循環の終わりにあたる。景気が悪くなってきて緩和的な利下げが行われ、指標はあまりさえないが利下げが行われ、リスク資産が上昇している状態だ。

 こんなとき、金利が低いので、利回り追求型の動きになりやすい。資金が、REIT(不動産)にいったり国債に流れたり、社債に流れる動きが見られる。株式も底を打って上がっていく見方が強まる。あらゆる資産が上昇していく状況が起きやすい。

 現在、米国の景気は悪くない。継続して利上げをしてきたが、7月末のFOMCでの利下げがほぼ織り込まれている状況。FRBは、米中の対立が激しくなっているので景気の先行きが見通しにくくなっている。そのため予防的に利下げしようとしている。

ーー直近、金(ゴールド)の価格も上昇している

 市場には、お金はすでにジャブジャブの状態。株もすでに上がっているので、ここから追加で投資していいものかという状況。すると、金利や配当などの裏付けのない、金のような資産にお金が動く。

 金利が低い中でさまざまなリスクが取りやすい。そんな中でコモディティ(金などの商品)はまだ上がっていないので、では金にいこうと。中東情勢も不安定で、米国とイランの対立も目立ってきているので、安全資産という意味で金に流れることもあるかもしれない。

ーー現在の景気の注意点は?

 ローンを証券化した商品としてCLOがある。そこにFRBは注意している動きがある。ただし今の段階で、リーマンショックのような金融危機になるほどの状態ではないとはっきり言っているので、今のところは大丈夫だろう。

 主要な資産に過熱感はない。米国株も、今年は企業の業績が厳しそうだが、来年は二桁の利益の伸びが見込まれている。上がっているのには利益の裏付けがある。

ーー債券価格も堅調だ

 米国の場合は、好景気が続いているが先行きは不透明。株式投資家は不安を持っていたが、FRBがハト派的になり、米中の対立も制裁関税第4弾まではいきそうにないという判断で株を買ってリスクを取っている。

 債権投資家は、これから利下げが始まるーーつまり金利が下がって債券価格が上がるので、今のうちの買っておこうという見方。それぞれの独自の相場観を持って投資している。

ーーマネーが市場にあふれている

 リーマンショックから10年たったが、まだお金はジャブジャブの状態が続いている。米国が利上げやバランスシートを縮小して、少しずつ減らしてきたが、米中の対立をきっかけに小休止している。

 ECB(欧州中央銀行)も、バランスシートの拡大をやめて一定の規模で維持している状態。ECBも早ければ9月くらいに利下げをしそうなので、場合によってはもう一回バランスシートをふくらませる、マネーをジャブジャブさせるような政策に傾く可能性がある。

 いったん大量にお金を供給してしまった以上、一気には巻き戻せない。

 過去にはここまでお金が供給されたことはない。FRBとECBと日銀、それぞれの当座預金の合計は、リーマンショック前は合計で5000億ドル程度だった。そこから現在に至るまでに大きく増えて7兆ドルを超えている。これがなかなか減らない。

ーーメリットや注意点は?

 銀行がこれだけお金をもっていると、多少悪い材料が出ても銀行不安や信用不安は起こりにくい。

 一方で、本来これは実体経済に流れるべきお金だ。それが銀行に積み上がっている。もしかしたら実体経済が必要とする以上のお金を、中央銀行が供給してしまった可能性がある。これを回収するにはかなり時間がかかる。一気に回収しようとすると、金融引き締めになってマーケットが構えてしまう。

 リスクとしては米中関係だ。トランプ大統領は来年大統領選挙を控えているが、それにもかかわらず制裁関税第4弾を実行すると、これには消費財が入っているので衣料品やPC、携帯などの価格が跳ね上がり、かなり経済が混乱する。その場合は、株安、リスク資産総崩れという可能性が高い。

 リーマンショック後、各資産の連動性が高まっている印象はある。中央銀行が大量に資金を供給したので、それを見てマーケットは動いている。

ーー日本の状況は?

 日本株はグローバルに見ると出遅れている。やはり米中問題の影響は大きい。日本の株式市場は製造業、輸出企業の割合が大きい。世界景気に敏感なマーケットだ。米中の対立で、景気の見通しが不透明だと最初に売られる。

 また米国が利下げに踏み切ったので、為替はドル安の動きになる。ドル安円高に振れると、円高が日本株の重しになる。

 一方で、国内のREIT(不動産)は為替リスクがない。国内が低金利なのも大きい。国内で利回りを求める投資マネーの動きが活発で、そこで投資先の1つとしてREITに流れている

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