北朝鮮ツアーが謎のブーム!? “近くて遠い国”のインバウンド戦略を追う気鋭の北朝鮮研究者が分析(3/4 ページ)

» 2019年08月01日 07時00分 公開
[礒崎敦仁ITmedia]

北朝鮮観光がブーム!? 人気は板門店

 2018年11月、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)中央常任委員会機関紙『朝鮮新報』は、「朝米首脳会談開催のニュースを受け、朝鮮観光がブームとなっている」と報じた。「今年(18年)、朝鮮を訪れた観光客の数は昨年の2倍に上る勢いだ。昨年の戦争危機から一転、朝鮮半島の平和への機運が高まっていることが観光分野にも大きな影響をもたらした」。このように語るのは、朝鮮民主主義人民共和国国家観光総局のキム・チュニ局長。観光客に、もっとも人気のあるスポットは2回の北南首脳会談が開催された板門店だという。

photo 中外旅行社手配の3泊4日の観光旅程の例

 板門店は3泊4日以上の北朝鮮観光のほとんどの旅程に含まれている。例えば、中外旅行社手配の3泊4日の観光旅程を見てみよう。北京泊を入れると全行程で4泊5日になっており、2019年10月催行で10人以上であれば羽田空港発着、添乗員同行で18万8500円であり、査証申請代13000円、空港諸税15万5000円+燃油サーチャージ、シングルルーム利用一泊あたり8000円が別途かかるという。「朝鮮旅行友の会」の企画となっており、リピーターにも対応できるよう白頭山建築研究院や大同江水産物食堂など新たな訪問地も含まれている。

 また、日本人の送客を大連所在の旅行会社を通じて行っているコリアツアーズ手配の観光旅程も見てみることにする。こちらは丹東発着、国際鉄道利用となっており、ツアー料金は1人だと19万円、2〜5人だと16万1000円、6〜9人だと14万9000円、10人以上は要問合せとなっている。日本国内と丹東の間の交通費は含まれていないため費用面での単純比較は難しいものの、スケジュールは非常に似通っていることが分かる。

 いずれも北朝鮮国内では3食が付いており、2人の案内員が同行することになるなど基本的な条件は同じである。つまり、日本もしくは国外のいかなる旅行会社で手配しても北朝鮮での旅行内容は大きく変わらない。北朝鮮の国営旅行社である朝鮮国際旅行社が日本人観光客の受け入れを一手に引き受けているからである。受け入れ先が同一であるため、日本もしくは国外の旅行会社の間の競争関係は、リピーターを含む顧客のニーズに合わせた新たな観光商品の開発のほか、旅行費用、出発前の相談対応や添乗員の同行といったサービスの提供による差別化によって成立してきたのである。

 中国やロシアとの国境地域である、北朝鮮北東部のへの2、3泊の観光や中国国境に接するへの日帰り観光を除き、北朝鮮観光のコースは、首都・平壌が発着点となる旅程が大部分である。平壌を起点として地方の主要観光地を点と点で結ぶ観光ルートの原則には長年大きな変化が見られない。1994年11月に筆者が初めて参加した北朝鮮ツアーは、次のような行程であった。「地球の旅」という中堅旅行会社が主催したツアーであったが、実際の手配は中外旅行社が行っていた。

1日目 15:20北京出発、17:40平壌到着(高麗航空)、民族食堂にて夕食、高麗ホテル泊

2日目 専用バスにて開城へ、板門店視察、開城民族旅館泊

3日目 開城市内観光(南大門、成均館など)、平壌へ、高麗ホテル泊

4日目 南浦へ、南浦市内観光(西海閘門など)、平壌へ、サーカス観覧、高麗ホテル泊

5日目 平壌市内観光(主体思想塔など)、11:50平壌駅出発、国際列車で北京へ

 87年に日本人観光客の受け入れが始まった当時の基本コースとほぼ同様の内容である。日程が長くなればここに妙香山が加わり、さらに余裕があれば元山と金剛山が加わるのが一般的であった。

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