静岡県知事の「リニア妨害」 県内からも不満噴出の衝撃【前編】:現地取材で覚えた「違和感」(4/5 ページ)

» 2019年10月02日 05時00分 公開
[河崎貴一,ITmedia]

溝が深まったJR東海と静岡県の交渉経過

 川勝知事は、大井川の源流部でトンネル工事を行うと水量が減少し、大井川の水を利用する県民約62万人に影響が出る、と危機感をあらわにしている。その危機感のもとになった大井川の減水量について、静岡県側はJR東海側が最初に提出した環境影響評価準備書(13年)に基づいて「毎秒2t(トン)」の数値をあげている。この水量が減少すれば、東京ドーム1杯ずつ大井川の水が1週間で減ることになる。その水量が、県民62万人分の生活用水に匹敵すると静岡県は主張する。

【訂正:2019年10月2日午後2時25分 初出で「東京ドーム1杯ずつ大井川の水が毎日、減ることになる」と記載しておりましたが、「毎日」は「1週間で」の誤りでした。訂正いたします】

 ところが、JR東海の環境影響評価準備書を読むと、「最大で毎秒2t減水と予測」とあり、それも「覆工コンクリート等がない条件」というただし書きがある。「覆工コンクリート等」とは、トンネルを掘削する際に、壁面を覆工コンクリートや防水シート、薬液注入などによって湧水を極力低減させる技術で、リニアのトンネル工事には施設される。これらの工法は、国内各地のトンネル工事でも湧水を防ぐ効果をあげている。したがって、これらの対策が実施されれば、毎秒2tも減水しないはずなのだ。

photo 静岡・山梨県の県境、静岡・長野県の県境に釜場(プール)を作り、トンネルで自然落下してきた水を貯め、ポンプアップして導水路トンネルに流すので、トンネルから湧き出た水は大井川へ流すことになるとJR東海は説明する(静岡県のWebサイトより)

 トンネル内の湧水対策についても、JR東海は現実的に対応してきたように思われる。南アルプストンネルは、東の山梨県側のトンネルに入ってから静岡県内まで上り勾配が続き、西の長野・静岡県境付近で標高が最も高くなる。トンネル内で発生した湧水は、何もしなければ大部分が山梨県に向かって流れていく。

 そこでJR東海は、トンネル中央付近に導水路トンネルを設けて、長野県方向から流れてきた水を大井川に放流する。標高の低い静岡・山梨県境付近と長野・静岡県境付近にはプールを設置して、溜まった水をポンプアップして、前述の導水路で放流する計画を示している。

 静岡県とJR東海との交渉は次のように進んだ。

13年9月 JR東海は「環境影響評価準備書」で「覆工コンクリート等がない条件で湧水は最大2t/秒と予測」と示す。

14年3月 川勝知事は、「トンネルの漏水防止対策や施設内の湧水を大井川へ戻す対策をとること、流量減少が生じた場合は直ちに公表し万全の措置をとること」と意見を表明。

14年4月 JR東海は「環境影響評価書」で事業者の見解として、大井川の水資源について適切な対策を行う旨を表明。

14年7月 環境大臣意見を勘案した国交大臣意見表明「専門家の意見を踏まえて対策を実施すること」。

14年10月 国交大臣が工事実施計画を認可。

14年12月 JR東海が大井川水資源検討委員会を設置。トンネル工学や河川工学の専門家のほかに、国や県の関係部署も参加して環境保全措置を検討。導水路トンネルを設置し、必要に応じてポンプアップすることとした。

17年1月 JR東海は「事後調査報告書」で、導水路トンネルの計画とそれに関係する調査・影響の検討結果を示す。

17年3月 大井川の利水団体(島田市等の市町村、大井川土地地改良区、特種東海製紙等の企業など)が、JR東海へ基本協定締結を要望。

17年4月 川勝知事が事後調査報告書について、「(湧水の)全量を恒久的かつ確実に戻すことを早期に表明し、4月28日までに協定を結ぶこと」と意見を述べる。

17年10月 県が取りまとめ役となりJR東海と利水団体で文書案を調整し、工事着手に向け大筋合意。

17年10月 川勝知事が記者会見で協定締結に反対を表明。「全量戻しを明言せず誠意ある回答がないのは、極めて傲慢な態度」と“ちゃぶ台返し”を行い、JR東海を強く非難。

18年10月、JR東海が「湧水の全量を大井川に流す」と譲歩しても、川勝知事は態度を一層硬化させて今に至っている。


photo 川勝知事の定例記者会見(2019年6月11日)。静岡県公式ホームページ「ふじのくにネットテレビ」より

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