世界を見渡せば、その国の文化や歴史を代表するような木造建築は、高い入場料、拝観料を徴収するのが「常識」となっている。職人がひとつひとつ手作業をしなくてはいけないというコストはもちろんのこと、一度燃えたらあっという間に延焼してパアになるので、防火設備に金をかけるからだ。
例えば、世界遺産「キジ島の木造教会建築」がある野外博物館の入館料は現在600ルーブルで日本円では約1020円。だが、外国人観光客がよく利用する通訳付きのツアーと合わせれば2000円近くにまで膨れ上がる。ちなみに、首里城のガイド(日本語)、英語と中国語に対応するアプリはすべて「無料」だ。映画『アナと雪の女王』に登場する城のモデルにもなったゴル・スターヴ教会をはじめ、ノルウェー国内の伝統建築を集めたノルウェー民族博物館は公式Webサイトを見ると、大人は160クローネ。日本円だと2500円である。
この傾向はアジアも変わらない。日本以上の観光大国であるタイのパタヤで、1981年から工事が続けられ、「アジアのサクラダ・ファミリア」とも呼ばれるサンクチュアリー・オブ・トゥルースの入館料は、タイ国政府観光庁のWebサイトでは、「500バーツ〜」とあり、こちらも現在のレートでは1795円だ。
琉球王国の宮殿再現という歴史的価値に加えて、琉球舞踊や伝統的儀式を現代に伝える文化継承の場という意味では、首里城はこれらの木造建築と比べてまったく遜色ない。しかし、入場料はその半分から3分の1である。つまり、今回の被害を拡大させたのは、市民体育館レベルの「安すぎる入場料」しか取っていなかったことで、世界の木造建築では当たり前のメンテナンスやセキュリティが実現できていなかった可能性が高いのだ。
多くの識者が指摘しているように、県内最大の木造建築物だった首里城には、あまりにお粗末な防火設備しかなかった。正殿には外から火がくるのを防ぐドレンチャーという消火設備のみで、周囲には放水銃4基があったが、今回の火災では熱で近づけなかったため使用すらされていない。
なぜお粗末な防火設備だったのかというと、首里城の施設保全や利用者の安全対策のために費やすことができる予算が少ないからだ。では、なぜ少ないのかというと、「安すぎる入場料」のせいだ。
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