首里城の被害を拡大させたのは「安すぎる入場料」だと考える、これだけの理由スピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2019年11月05日 08時11分 公開
[窪田順生ITmedia]

だからこそ、「高い入場料」が必要

 首里城公園Webサイトの「時間帯別入場者数」の中で、イベント「首里城祭」がある10月1日〜10月31日の時間帯別入場者予測(前年度実績)を見れば、朝9時〜10時の間に1200人以上も入場している。

 では、姫路城を上回る人々が押しかける人気観光施設を管理してきた国は、なぜ姫路市のような発想に至らなかったのだろう。歴史的建造物ではなく復元した施設ということで軽く見ていたのか。いろいろな可能性が頭によぎるかもしれないが、普通に考えれば国の国営公園整備事業の中で「優先度が低い」と判断された、という説明が一番しっくりこないか。

 要するに、限りある予算の分配レースの中で、「どの文化財も金がないと困っているところに、なんで法的にも整備の必要がない設備に大金をかけなくちゃいけねーんだよ」と放置され続けたのだ。

 こういうギスギスしたカネの話になってくると、日本人は「カネだけがすべてではない」とか「歴史や文化を守ろうという心が大事」みたいな精神論方向へ流れがちだが、実は首里城のような文化や歴史を後世に伝える施設や、文化財などの場合、老朽化対策や修理、そして防火・耐震などカネで解決できる問題が山ほどあるのだ。

 だが、このカネがないというシビアな現実がある。多くの自治体が人口減少で財政難に陥り、国もインフラ整備や社会保障のコストが雪だるま式に増えている。「いつ起きるか分からない地震」「いつ発生するか分からない火災」「仏像や木造建築の崩壊」に費やせるカネはどんどん減っていく。

 だからこそ、「高い入場料」が必要なのだ。

 入場料を諸外国並に1500〜2000円程度上げれば収益も上がる。もちろん、展示や体験に値上げに見合うだけのものにしなくてはいけないが、そのように施設の価値が上がれば、貸切やイベント使用料も上げられる。このように一般の観光施設のように、維持費を自力で捻出できれば、お粗末な防火設備にも手を加えられる。

 もちろん、この「高い入場料」は観光客だけに限った話だ。沖縄県民は「地域住民割引」でこれまで通りの830円で、修学旅行などの教育目的も安くていいだろう。しかし、県外から訪れる日本人観光客、そしてフェリーでやって来る中国、韓国、台湾の観光客、欧米からの観光客からはビタ一文負けることなく、2000円くらいを取るべきなのだ。

 なぜかというと、観光客というのは日本人だろうが中国人だろうが、混雑やゴミ問題など多かれ少なかれ地域の人々に迷惑をかけているからだ。一方、地域の人々は、このような施設が伝える歴史や文化を守る担い手である。これくらいの「差」をつけるのは、どこの国でもやっている。

 例えば、世界遺産アンコールワットにもその復元や補修に莫大なカネがかかるので、入場料もそれなりに高い。筆者が訪れた2年前も大幅に値上げして4000円くらいになっていたが、カンボジア人はタダだ。また、外国人観光客が払う入場料の一部は、地元の子どもたちがかかる病院に寄付されている。

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