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» 2019年11月05日 08時11分 公開

首里城の被害を拡大させたのは「安すぎる入場料」だと考える、これだけの理由スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

[窪田順生,ITmedia]
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日本の賃金は「異常」に低い

 ご存じのように、日本は先進国の中で「異常」ともいうほど賃金が低い。最低賃金ではとても憲法で保障される「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことはできない。しかし、賃金をあげようとすると四方八方から「失業者が溢れるぞ」「地方はおしまいだ」なんてこの世の終わりのような悲鳴が上がる。

 「低すぎる賃金」は、地方の活力を生み出している各地の中小企業を助けて、日本が誇る「安くて質のいいサービスや商品」を生み出す原動力だというのである。

 表面的に見ればそうかもしれない。しかし、この「低すぎる賃金」が、結婚や出産に踏み切れない若者を多くつくって少子高齢化を加速させて、先進国でもダントツに低い労働生産性を生み、国際社会では「奴隷」と評価されてもしょうがないほどのブラック労働と、時代錯誤的で陰湿なパワハラのドライバーになってきた、という動かしがたい事実がある。

 つまり、「低すぎる賃金」は一見すると、安くて質のいい商品やサービスを生み出し、地方経済のためになるなどメリットもありそうだが、実は冷静になって眺めれば、我々日本人の心と肉体、そして社会を内側からガタガタに破壊するという深刻なデメリットがあるのだ。この皮肉な構図は、「低すぎる入場料」と丸かぶりなのだ。

 いずれにせよ、このような「とにかく安くて質のいいものを提供すれば間違いなし!」という呪いのような思考から脱却しない限り、日本中の歴史や文化を伝える施設、文化財などは首里城のように「崩壊」していくだろう。

 「低すぎる入館料」のおかげで確かに我々は国宝や文化財も気軽にみることができるようになった。しかし、それは裏を返せば、先人たちが遺した貴重な英知や後世に伝えるべき「人類の宝」を、税金で運営する公民館や公立図書館と同じくらいの価値におとしめてしまった、ということでもあるのだ。

 首里城の独特の装飾美、そしてあの場で行われる琉球王朝時代の荘厳な儀式、伝統舞踏などを踏まれば、入場料は2000円でも安いと個人的には思う。少なくとも、歴史に翻弄されてきた沖縄の人々の「誇り」を考えれば、そんな低い価値ではないはずだ。

 新しい首里城がどのような形になるのかはまだわからないが、沖縄に訪れる外国人観光客、県外からの日本人観光客に対して、強気の価格設定ができる素晴らしい施設になることを期待したい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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