あなたのSNSも監視される? WhatsAppが訴えたサイバー企業の“不都合な実態”世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2019年11月14日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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知らないうちに拡大するスパイウェア市場

 そういった企業は欧州にもある。英国のガンマ・グループという企業は「FinFisher(フィンフィッシャー)」という監視ソフトウェアを世界各地に提供しているし、フランスのパリを拠点にNSOと監視ソフト開発で競っている企業体、インテレクサという組織もある。また以前はイタリアのミラノに本部を置くハッキング・チームという企業が遠隔操作スパイウェア「Galileo(ガリレオ)」というものを販売していた。ただこのハッキング・チームについては、まだビジネスを続けているのかがはっきりしない。ただイタリアには、アンドロイド携帯を専門にスパイウェアを売るイーサーブという企業もある。

 これほど数多くの企業が存在しているということは、それだけ需要があるということだ。日本も例外ではなく、実際に、日本の公安関係機関も監視システムに興味を示して、企業から説明を受けていたことが明らかになっている。法律や規制のもとで適切に使われる分には効果的かもしれないが、どうしても当局によって悪用されるのではないかという懸念がついて回る。強権国家や独裁国家なら気にすることもないのだろうが、人権やプライバシーを重んじる民主国家での導入はハードルが高いだろう。

 とはいえ、今日、私たちはスマホやPCなどコンピュータのない生活は考えにくいし、年々、人々のデバイスへの依存度も高くなっている。5GやIoTが普及すれば、私たちの身の回りのモノがほとんどネットワークにつながるような時代がそう遠くない未来にやってくる。

 そうなれば、私たちが知らないうちにかなりの規模になっているスパイウェア市場も、人知れずますます成長していく可能性がある。

 WhatsApp(つまりFacebook)が、そんな分野の大手企業の傍若無人ぶりに立ちはだかっている。その意味合いを考えればもっと大きく取り上げられるべき重要なニュースなのだ。

 引き続き、この裁判やスパイウェア市場の動向からは目が離せない。いや、注目して見ておいたほうがよさそうだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最新刊は『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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