レバレッジ付き投資信託続々 機械学習も組み合わせた「米国分散投資戦略ファンド」(3/3 ページ)

» 2019年11月18日 10時48分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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機械学習を活用してリスクを推定 ポートフォリオを機動的に調整

 もう一つの特徴である機械学習は、機動的なポートフォリオの変更に活用する。

 投資への機械学習活用には、将来の価格変動の推測、銘柄の選定、将来リターンの推計などいろいろな可能性があるが、米国分散投資戦略ファンドでは、リスクを推定することで最適なポートフォリオを作る。

 資産の分散効果によってリスクを減らすポートフォリオを組む場合、各資産のリスク――過去の一定期間のボラティリティ(値動き)を基に計算する場合が多い。しかし「過去のボラティリティを参照する形だと急激な経済環境の変化に対応しにくい」(松永氏)という弱点があった。

 米国分散投資戦略ファンドでは、現在の経済指標から、過去のどんな経済状況に似ているかを機械学習によって導きだす。「各資産のデータ、マクロ経済のデータをインプットして、それぞれの資産と経済指標の関連性を分析していく。『こういう経済環境だとこの資産はこういう動きをした』という、資産と経済の関連性をストックしていく」と松永氏。

 資産の過去数カ月の平均リスクを使う代わりに、過去の似た時期の各資産のリスクを使ってポートフォリオを最適化するため、経済環境の急変時にもスピーディーな組み換えが可能になる。

バックテストの状況。リーマンショックの際には急速に債券比率を高め、ほぼすべてを債券運用とした。経済状況に合わせてダイナミックに機動的な資産配分変更を行うのが特徴だ(=三井住友DS資料より)

 具体的には、クラスター分析を使い、総合米国株、ハイテク株、国債、モーゲージ債、金などの各資産のリスク関連度をグルーピングして、分散効果が最大になる組み合わせを探る。基本的には、1カ月単位でポートフォリオを組み直すが、経済指標が大きく変化した場合などは運用者の判断も入れ機動的に変更するという。

 機械学習の活用方法としては、過学習(オーバーフィッティング)を防ぐことも重要だと松永氏は話す。この場合の過学習とは、訓練データに適合させ過ぎることで、バックテストでは高い成績が出るが、将来のデータでは正しい結果が出ないことを指す。「今回の機械学習はアセットアロケーション(資産クラスごとのポートフォリオの組み合わせ方)に絞っている。資産クラスと経済環境だと相互の説明がしやすい。個別株だと過学習が起きやすい」(松永氏)

 機械学習によるポートフォリオ調整を、過去のデータに当てはめたバックテストでは、株価急落局面でも良い成績が出ている。例えば、世界株式が50%超下落した2000年3月末から02年9月末までのITバブル崩壊では、レバレッジ5倍の場合で逆に46.5%の上昇を記録した。リーマンショック時も、最大ドローダウン(月次の最高値からの下落率)は25.3%あったものの、2カ月で回復するなど、機動的なポートフォリオ調整が効果を発揮している。

 もちろん、機械学習に使うデータは過去20年程度だ。金利が継続的に下がり続けてきた期間でもあり、インフレもある程度抑え込まれてきた。短期的な金利上昇局面やインフレ局面はあったが、将来起こり得る経済環境は過去と大きく違う可能性もある。

 米国分散投資戦略ファンドは運用が始まったばかり。今後の運用実績に注目したい。

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