低迷続くアパレル業界で急成長 売上高の拡大にこだわり「粉飾決算」に手を染めたレディースニット卸に学ぶあなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る(12)(2/3 ページ)

» 2019年11月23日 05時00分 公開
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業界全体が低迷するなか、暖冬、災害と逆境が続く

 近年、アパレル業界全体の市場が縮小している。アベノミクスによる景気回復の実感のないまま、依然として消費は低迷しており、いわば「少ないパイ」の奪い合いのために業界内の競争も激化。さらには中国経済の減速などを受け大手アパレルメーカーの多くがリストラを迫られるなど、このところのアパレル市場は構造的な不況に陥っているのだ。

 さかのぼればバブル崩壊後から続くデフレ――つまりモノの値段が総じて下がっている流れで、ファッションにおいても「激安」といってもいいほど安価なアパレルショップ、いわゆる「ファストファッション」が普及した。こうして「安くて、デザイン性も高い服」が当たり前になったことも、アパレル業界の競争激化の一因として挙げられるだろう。 消費者の趣向の変化が加速し、流行もめまぐるしく変わることで、安定的な経営が困難になっていると考えられる。

 そんななかでも一時は順調に業績を伸ばしたイエリデザインプロダクツだったが、この業界事情が、次第に暗い影を落としていく。生産拠点としていた中国との外交関係の悪化や人件費の高騰を受け、国内生産にシフトしていくなかでコストが増加し、収益は低調に推移。店頭での販売も低迷し、価格転嫁が難しい事態に陥っていた。

 のちに提出された民事再生法適用の申立書によれば、この状況に「規模の経済」で対応しようと考え、売上高の拡大にこだわっていったのだという。その結果が不正確な内容の決算につながり、近時は自社の正確な損益状況がつかめないような状態になっていた。

 資金繰りが悪化するなか、租税関連の支払いが滞ったことなどから、金融機関などと協議を行い、借入元本の返済猶予の申し入れなどを含めた抜本的な経営体制の見直しを企図。中小企業再生支援協議会への支援要請とともに、財務内容の見直しや社内体制の変革などを進める必要に迫られていく。

 こうした動きのなか、もう1つ痛手となったのが、ニット製品そのものの売上減少だ。

 15年末から16年初めにかけて暖冬が続き、イエリデザインプロダクツの想定以上にニット製品の売り上げが減少。滞納していた支払いも資金繰りを圧迫し、資金ショートの危険性が大きくなっていった。

 16年1月・2月には月次の収支がマイナスとなり、春先には取引先への支払いサイト延長や、実質的な支払い遅れも発生する。

 この間、再建のためにリストラを行うなど経営効率化を図ったが、さらなる逆境が起こる。16年4月に起こった熊本地震の影響で九州地区での売上が著しく減少したうえ、同地区の取引先からの入金に遅延が発生、資金繰り難に拍車を掛けたのだ。ついに限界を迎え、同年6月2日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請した。

phot 「ファストファッション」が普及し、「安くて、デザイン性も高い服」が当たり前になったことも、業界の競争激化の一因だ(写真提供:ゲッティイメージズ)

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