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» 2019年11月23日 05時00分 公開

あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る(12):低迷続くアパレル業界で急成長 売上高の拡大にこだわり「粉飾決算」に手を染めたレディースニット卸に学ぶ (1/3)

成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。

[帝国データバンク 情報部,ITmedia]

連載「あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る」

成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。

第1回:格安旅行会社「てるみくらぶ」倒産の裏側に“キックバック依存経営”――多額の粉飾決算、社長らの詐欺

第2回:晴れの日を曇らせた着物レンタル「はれのひ」元社長の詐欺と粉飾決算――「成人の日に営業停止」の衝撃

第3回:スルガ銀と結託 “情弱”狙った「かぼちゃの馬車」運営会社の「詐欺まがいの手口」

第4回:太陽光ベンチャーを倒産に追い込んだ“制度の壁”――急成長企業の未熟さも足かせに

第5回:「経営陣の交代・奪還劇」が招いた倒産 “反社”関与もささやかれたエステ企業の粉飾決算

第6回:トラックレンタル業界の“異端児”が繰り広げた「違法すれすれの錬金術」――見せかけの急成長が招いた倒産事件

第7回:信用失墜が企業の「死」――親密取引先の破綻で連鎖倒産した“建機レンタル業界の異端児”

第8回:借り入れ依存度9割弱 金融機関の支援で「延命」されていた長野県有数の中小企業がたどった末路

第9回:主要取引先に依存する経営への“警鐘” そごう倒産で破綻に追い込まれたアパレル企業に学ぶ

第10回:大手金融機関の誘いに乗って「金融デリバティブ商品」に手を出した食品卸会社の末路

第11回:突如、明らかになった簿外債務35億円 最後まで説明責任を果たさなかった婦人用バッグ卸が示す「倒産の図式」

第12回:本記事


 1900年に創業した国内最大級の企業情報データを持つ帝国データバンク――。最大手の信用調査会社である同社は、これまで数えきれないほどの企業の破綻劇を、第一線で目撃してきた。

 金融機関やゼネコン、大手企業の破綻劇は、マスコミで大々的に報じられる。実際、2018年に発覚した、スルガ銀行によるシェアハウスの販売、サブリース事業者・スマートデイズへの不正融資問題などは、記憶にとどめている読者も多いだろう。一方、どこにでもある「普通の会社」がいかに潰れていったのかを知る機会はほとんどない。8月6日に発売された『倒産の前兆 (SB新書)』では、こうした普通の会社の栄光と凋落(ちょうらく)のストーリー、そして読者が自身に引き付けて学べる「企業存続のための教訓」を紹介している。

 帝国データバンクは同書でこう述べた。「企業倒産の現場を分析し続けて、分かったことがある。それは、成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある」。

 もちろん、成功事例を知ることは重要だ。しかし、その方法は「ヒント」になりこそすれ、実践したとしても、他社と同様にうまくいくとは限らない。なぜなら、成功とは、決まった「一つの答え」は存在せず、いろいろな条件が複合的に組み合わさったものだからだ。一方で、他社の失敗は再現性の高いものである。なぜなら、経営とは一言で言い表すなら「人・モノ・カネ」の三要素のバランスを保つことであり、このうち一要素でも、何かしらの「綻(ほころ)び」が生じれば、倒産への道をたどることになる。

 そしてそれは、業種・職種を問わずあらゆる会社に普遍的に存在するような、些細(ささい)な出来事から生まれるものなのだ。実際、倒産劇の内幕を見ていくと、「なぜあの時、気付けなかったのか」と思うような、存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事」が必ず存在する。同書ではそうした「些細な出来事=前兆」にスポットを当てて、法則性を明らかにしている。

 本連載「あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る」では、『倒産の前兆』未収録の12のケースを取り上げ、「企業存続のための教訓」をお届けする。第12回目はニット人気の高まりを受け、受注生産と自社ブランドの展開によって業績を伸ばしたものの、市場縮小をきっかけとして低迷し、「粉飾決算」に手を染めたレディースニットの卸業者を取り上げたい。

――レディースニット卸 イエリデザインプロダクツ

「ファッション」としてのニット人気の高まりを受け、受注生産と自社ブランドの展開によって業績を伸ばす。しかしアパレル業界全体の市場縮小をきっかけとして低迷。その他にも次々と難関に襲われるなか、リストラなどの再建策も奏功しなかった。資金繰りが悪化し、いよいよ後がないというときに、同社が陥った落とし穴とは、いかなるものだったのか。

phot 業界内でも固有の立ち位置を確保していたレディースニット卸の「名門企業」はいかにして転落していったのか……(写真提供:ゲッティイメージズ)

受注生産とオリジナルブランドの両輪で急成長

 イエリデザインプロダクツは、代表のT氏が、婦人ニットの企画・販売を目的として1997年9月に設立した。

 設立当初の商号は(有)イエリ。その後、2006年6月にイエリデザインプロダクツへと商号を変更し、株式会社へと移行。ファッション専門学校の同級生を取締役に迎え、業容を拡大していく。レディースを中心としたニット製品を専門に扱い、「横ニット」(横編みのニット)専業の企画卸業者として、業界内でも固有の立ち位置を確保していた。

 事業の主軸の1つは、服飾ブランドからの発注で製品を製造するOEM受注だ。

 OEMだと、発注側のブランドは自社工場を運営する負担なく、製品を市場に送り出すことが可能となり、イエリデザインプロダクツのような受注側は、発注者のブランド力や流通力などを利用して製品の販売量を増やし、売上を伸ばすことができる。つまり発注側、受注側の利害が一致する仕組みというわけだ。

 OEM受注以外に、イエリデザインプロダクツは自社ブランドも展開。アイテム数ではオリジナルブランドが扱い品の約7割を占めていた。「iliannloeb(イリアンローヴ)」「equo(エクオ)」「lilypicot(リリーピコ)」や、メンズブランド「IISERLOEN(イイザローン)」といったオリジナルのブランドを生み出すなど、代表のT氏を中心にチャレンジングな経営を続けた。

 メインターゲットには主に25〜35歳くらいまでのOLやキャリア女性を設定し、個性重視の“デザイナーズ”と、無難で保守的な路線の“ベーシック”の中間に位置する商品を展開する。とくにデザイナーの層が厚く、アイデアが豊富なことも業界内での高い評価につながった。

 これらを強みに、イエリデザインプロダクツは、大手アパレルメーカーやセレクトショップ、地方都市のブティックなど幅広い得意先を獲得する。グローバルな事業展開でも競争力を有し、ニューヨークやロサンゼルス、ベルリンなどへも出展。海外の取引先は16カ国に及んでいた。

 また、代表のT氏は、他のアパレル卸業者のブランド開発プロデューサーに起用されるなど、業界内でも気鋭の経営者として知られていた。各界に多くの人脈を有し、社会問題にも積極的に取り組んだ。

 こうした背景のもと、イエリデザインプロダクツは毎期順調に業績を伸ばし、14年7月期には年売上高約21億8800万円を計上。防寒用にとどまらず「ファッション」としてのニットの人気が高まってきた時代にあって、大きく成長した企業だったのだ。

phot イエリデザインプロダクツがあった建物(写真提供:帝国データバンク)
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