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» 2019年11月06日 05時00分 公開

あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る(10):大手金融機関の誘いに乗って「金融デリバティブ商品」に手を出した食品卸会社の末路 (1/3)

成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。

[帝国データバンク 情報部,ITmedia]

連載「あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る」

成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。

第1回:格安旅行会社「てるみくらぶ」倒産の裏側に“キックバック依存経営”――多額の粉飾決算、社長らの詐欺

第2回:晴れの日を曇らせた着物レンタル「はれのひ」元社長の詐欺と粉飾決算――「成人の日に営業停止」の衝撃

第3回:スルガ銀と結託 “情弱”狙った「かぼちゃの馬車」運営会社の「詐欺まがいの手口」

第4回:太陽光ベンチャーを倒産に追い込んだ“制度の壁”――急成長企業の未熟さも足かせに

第5回:「経営陣の交代・奪還劇」が招いた倒産 “反社”関与もささやかれたエステ企業の粉飾決算

第6回:トラックレンタル業界の“異端児”が繰り広げた「違法すれすれの錬金術」――見せかけの急成長が招いた倒産事件

第7回:信用失墜が企業の「死」――親密取引先の破綻で連鎖倒産した“建機レンタル業界の異端児”

第8回:借り入れ依存度9割弱 金融機関の支援で「延命」されていた長野県有数の中小企業がたどった末路

第9回:主要取引先に依存する経営への“警鐘” そごう倒産で破綻に追い込まれたアパレル企業に学ぶ

第10回:本記事


 1900年に創業した国内最大級の企業情報データを持つ帝国データバンク――。最大手の信用調査会社である同社は、これまで数えきれないほどの企業の破綻劇を、第一線で目撃してきた。

 金融機関やゼネコン、大手企業の破綻劇は、マスコミで大々的に報じられる。実際、2018年に発覚した、スルガ銀行によるシェアハウスの販売、サブリース事業者・スマートデイズへの不正融資問題などは、記憶にとどめている読者も多いだろう。一方、どこにでもある「普通の会社」がいかに潰れていったのかを知る機会はほとんどない。8月6日に発売された『倒産の前兆 (SB新書)』では、こうした普通の会社の栄光と凋落(ちょうらく)のストーリー、そして読者が自身に引き付けて学べる「企業存続のための教訓」を紹介している。

 帝国データバンクは同書でこう述べた。「企業倒産の現場を分析し続けて、分かったことがある。それは、成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある」。

 もちろん、成功事例を知ることは重要だ。しかし、その方法は「ヒント」になりこそすれ、実践したとしても、他社と同様にうまくいくとは限らない。なぜなら、成功とは、決まった「一つの答え」は存在せず、いろいろな条件が複合的に組み合わさったものだからだ。一方で、他社の失敗は再現性の高いものである。なぜなら、経営とは一言で言い表すなら「人・モノ・カネ」の三要素のバランスを保つことであり、このうち一要素でも、何かしらの「綻(ほころ)び」が生じれば、倒産への道をたどることになる。

 そしてそれは、業種・職種を問わずあらゆる会社に普遍的に存在するような、些細(ささい)な出来事から生まれるものなのだ。実際、倒産劇の内幕を見ていくと、「なぜあの時、気付けなかったのか」と思うような、存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事」が必ず存在する。同書ではそうした「些細な出来事=前兆」にスポットを当てて、法則性を明らかにしている。

 本連載「あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る」では、『倒産の前兆』未収録の12のケースを取り上げ、「企業存続のための教訓」をお届けする。第10回目はフカヒレやアワビなど高級中華食材を扱っていたものの、為替デリバティブ取引で大損失を計上して倒産に追い込まれた食品卸会社を取り上げたい。

――食品卸 昌立物産

フカヒレやアワビなど高級中華食材を扱い、有名店や高級ホテル内の中華料理店と取引を展開する。顧客満足度は高く、リーマン・ショックによる景気停滞のなかでも持ちこたえていたが、為替デリバティブ取引で大損失を計上。その損失を埋めるために銀行借入が増えるという状況に陥る。本業では堅調だった昌立物産は、いったいどこで道を誤り、倒産を免れなくなったのか。

phot 「昌立物産といえばフカヒレ」と認識されていたのだが……(写真提供:ゲッティイメージズ)

「高級中華を支える有名商社」が転落した理由

 昌立物産は、1952年に創業したフカヒレ加工所をルーツとして、74年、この加工所を法人化した和昌(当時)から分離独立する形で設立された。

 そのため、業界内では「昌立物産といえばフカヒレ」と認識されるほどの看板商品となっていた。また、「フカヒレ=高級中華食材」というイメージを活用し、アワビやクラゲ、中華調味料、中国酒など中華料理に特化した食材の販売に注力していた。取引先は中華料理店約1500軒を数え、個別にみると有名店や高級ホテル内の店が並んでいる。

 そこからは、単に高級食材を扱っているというだけではなく、顧客満足度の高さがうかがえる。充実した商品種類のほか、中華食材を熟知した営業スタッフの存在、小回りの利く物流機能などが取引先から評価され、2007年6月期には年売上高約34億2000万円を計上していた。

 しかし、リーマン・ショック以降の経済不況下で、外食産業では価格競争が激化していく。中華料理店にも低価格志向の波が押し寄せ、昌立物産の経営体制に変化が生じた。

 まず、看板商品として掲げていた高級食材の販売が低迷する。利幅を取りやすい高価格帯の商品が売れなくなったことで、小さな利益を積み増す売上至上主義の経営体制となった。これに伴い、利益率を度外視した受注が増加し、結果として、運送費まで勘定すると赤字受注になる案件も散見されるようになる。

 また、得意先との取引を維持するために行った「御用聞き」にも問題があった。得意先の要望に合わせて、ほかの顧客からの受注見込みが薄い品であっても、すぐに商品提供できるよう在庫を持つようになったのだ。結果、販売見込みの薄い過剰在庫を抱える事態に陥った。

 こうして収益性が悪化するなかで、財務内容も毀損する。15年6月期の決算内容を見ると、売上高は07年同時期の30%減となる約24億5700万円まで落ち込み、棚卸資産回転期間(在庫が月商に占める割合)は、業界平均を上回る1.25カ月となっていた。つまり、業界平均以上に在庫を多く抱えていたということだ。

 ただし、こうした本業の問題は、企業を法的整理に追い込むほど深刻ではなかった。最終損益では赤字計上しているものの、本業の状況を示す営業損益の段階では、毎期3000〜4000万円程度の利益を計上していたのだ。

 では、昌立物産は、なぜ民事再生法の適用を申請するに至ったのか。一番の原因は、「為替デリバティブ」とされている。本業に専念していれば、持ちこたえられたかもしれないところ、為替を元にした金融商品に資金を投じた末に、為替の変動という外的要因によって大損失を出してしまったのだ。

phot 昌立物産があった建物(写真提供:帝国データバンク)
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