大手金融機関の誘いに乗って「金融デリバティブ商品」に手を出した食品卸会社の末路あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る(10)(2/3 ページ)

» 2019年11月06日 05時00分 公開
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銀行の勧誘に乗った末に、銀行にハシゴをはずされる

 2000年代前半より積極的に販売された為替デリバティブとは、一定条件で通貨を売買できる先物取引の金融商品のこと。例えば「1ドル=100円」で購入するという条件で契約すると、為替相場が「1ドル=120円」となった際に、契約者が得をするというものだ。

 逆に、為替相場が「1ドル=80円」となった際でも、一定量を「1ドル=100円」で買う必要がある。そのリスクを熟知したうえで契約するべき金融商品といえるが、実態としては、十分な知識を持たぬまま、為替デリバティブ契約を結ぶ中小企業が多かった。

 結果として、円高ドル安に振れた10年ごろには、デリバティブ損失が引き金となる倒産が複数発生し、大きな社会問題となった。それまでの円安ドル高基調に乗ってデリバティブ契約を結んだ多くの企業が、その矢先に為替が円高ドル安に振れたために、先に述べたような「1ドル=80円」なのに「1ドル=100円」の相場で買わなければならない、という事態となったのだ。そこで出た多額の損失による倒産が相次いだ。

 昌立物産もまた、知識不足のまま為替デリバティブを導入したことから、大きなダメージを受けた企業の1つだった。05年10月ごろから大手金融機関の勧誘を受け、デリバティブ契約を締結する。しかし、それ以降は円高ドル安が進んだことで、08年ごろには、事業収益ではまかなえないほどのデリバティブ損失を計上していた。

 そして金融デリバティブで生じた損失額を補うために金融機関から資金調達し、借入金が増加するという状況に陥る。たとえるならば、「銀行からもらって飲んだ毒を緩和するために、銀行から薬を買う」という状況に置かれてしまったのである。

 経営に行き詰った末に、12年6月に金融機関に対し、リスケ(返済条件の変更)を要請。この弁済猶予期間に、事業再生への道筋を立てるべく奮闘する。

 13年12月、為替デリバティブ契約を結んだ取引金融機関にのみ、債務免除を要請する返済計画案を提出する。

 そこで示されたのは、「協議会スキーム」および「中小企業再生支援協議会の支援による再生計画の策定手順」に沿った内容だ。ところが、金融機関からは「中小企業再生支援協議会など、第三者機関を経由した事業再生でない限り判断できない」という理由で協力を断られてしまう。

 このため、今度は中小企業再生支援機構協議会の利用を検討したが、協議会からは「一部金融機関との間において、為替デリバティブ取引に関わる債権額が未確定である」ことから、「債権額を確定しない限り利用できない」との返答を受けた。

 さらに14年9月、一般社団法人全国銀行協会あっせん委員会を通した金融機関との調整を図るが、デリバティブ取引の契約に関わる金融機関の責任について、昌立物産とあっせん委員会の認識に乖離があった。また、債務免除額も昌立物産の納得のいく金額でなかったため、15年1月には手続きを打ち切った。

 こうしたなか、一難も去らずに、また一難という事態になる。15年6月には、税務署から税務調査を受け、13年6月に損金計上している過年度修正損について、欠損金の繰越控除が認められないとの判断が下った。

 それまで策定していた返済計画は、この繰越控除が受けられることが前提であり、不認可となったことが決定打となる。これをもって銀行に対する全額弁済の道が絶たれたため、金融機関からの弁済猶予も受けられなくなり、16年5月10日に民事再生法の適用を申請した。

phot 「銀行からもらって飲んだ毒を緩和するために、銀行から薬を買う」という状況に置かれてしまった(写真提供:ゲッティイメージズ)

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