晴れの日を曇らせた着物レンタル「はれのひ」元社長の詐欺と粉飾決算――「成人の日に営業停止」の衝撃あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る(2)(1/4 ページ)

» 2019年08月08日 05時00分 公開
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 1900年に創業した国内最大級の企業情報データを持つ帝国データバンク――。最大手の信用調査会社である同社は、これまで数えきれないほどの企業の破綻劇を、第一線で目撃してきた。

 金融機関やゼネコン、大手企業の破綻劇は、マスコミで大々的に報じられる。実際、2018年に発覚した、スルガ銀行によるシェアハウスの販売、サブリース事業者・スマートデイズへの不正融資問題などは、記憶にとどめている読者も多いだろう。一方、どこにでもある「普通の会社」がいかに潰れていったのかを知る機会はほとんどない。8月6日に発売された『倒産の前兆 (SB新書)』では、こうした普通の会社の栄光と凋落(ちょうらく)のストーリー、そして読者が自身に引き付けて学べる「企業存続のための教訓」を紹介している。

 帝国データバンクは同書でこう述べた。「企業倒産の現場を分析し続けて、分かったことがある。それは、成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある」。

 もちろん、成功事例を知ることは重要だ。しかし、その方法は「ヒント」になりこそすれ、実践したとしても、他社と同様にうまくいくとは限らない。なぜなら、成功とは、決まった「一つの答え」は存在せず、いろいろな条件が複合的に組み合わさったものだからだ。一方で、他社の失敗は再現性の高いものである。なぜなら、経営とは一言で言い表すなら「人・モノ・カネ」の三要素のバランスを保つことであり、このうち一要素でも、何かしらの「綻(ほころ)び」が生じれば、倒産への道をたどることになる。

 そしてそれは、業種・職種を問わずあらゆる会社に普遍的に存在するような、些細(ささい)な出来事から生まれるものなのだ。実際、倒産劇の内幕を見ていくと、「なぜあの時、気付けなかったのか」と思うような、存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事」が必ず存在する。同書ではそうした「些細な出来事=前兆」にスポットを当てて、法則性を明らかにしている。

 本連載「あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る」では、『倒産の前兆』未収録の12のケースを取り上げ、「企業存続のための教訓」をお届けする。第2回は、成人の日当日に世間を騒がせた衣装レンタル会社「はれのひ」を取り上げたい。

――衣装レンタル、販売 はれのひ

「成人の日当日に、着るはずだった振り袖が届かない」という前代未聞の大騒動を起こした着物レンタル業者。破産手続きを受けて開かれた記者会見で、「ギリギリまで業者と交渉するなどの対応をしていた」とあくまで詐欺の疑惑を否定する社長に対し、会場に押し寄せた多数のマスコミ関係者からは、疑問と非難の声があがった。式を楽しみにしていた新成人を数多く悲しませる事態となった同社の倒産、その元凶はどこにあったのか。

phot 顧客の「晴れの日」を非情にも裏切った罪は重い(はれのひ営業時の公式Webサイトより)

店舗数拡大による売上伸長は、3年足らずで頓挫

 はれのひは、S社長が呉服店や写真館向けの経営コンサルティング業を目的として、2008年10月に個人創業、11年3月に株式会社に法人改組した企業だ。設立当初は、商号をシーン・コンサルティングとして、S社長が前職で培った店舗開発や人材育成ノウハウに加え、呉服業界での営業経験を生かしたコンサルティングを行っていた。

 それが13年8月に、はれのひ横浜店をオープンして以降、横須賀、福岡、八王子、つくば、柏と短期間に店舗数を拡大。着物のレンタルと販売をメインとする業態に変わったことを受け、15年12月、商号を屋号に合わせる形で、はれのひに変更した。

 はれのひは着物のレンタル業界内では後発企業であったものの、店舗数拡大により着物の取扱数量が急伸したことで、着物問屋から優先的に良品を確保できる関係を構築する。これを武器に積極的なDMや電話営業を展開した結果、15年9月期の年収入高は前年比でほぼ倍増となる約3億8000万円を計上するなど、急速に業容を拡大していた。

 16年に入ると、S社長は会社関係者や取引先に「今から3年後の19年にIPOをする」と公言するようになったという。人事評価制度の構築や管理体制の見直しなど、実際にIPOに向けた準備をスタートさせ、さらなる急成長に意欲を見せていた。

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