晴れの日を曇らせた着物レンタル「はれのひ」元社長の詐欺と粉飾決算――「成人の日に営業停止」の衝撃あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る(2)(2/4 ページ)

» 2019年08月08日 05時00分 公開
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刻々と近づいていた「経営破綻の足音」

 ところが時期を同じくして、経営に変調が見られるようになる。

 16年2月には、一部の仕入先に対する支払いの遅れが発生。その際は銀行借入で資金繰りを繋(つな)ぎ、いったんは信用不安の情報は収まったが、17年に入ると、再び仕入先への支払い遅延が発生する。

 そして同年6月ごろからは督促にも応じなくなるなど、支払いの遅れが常態化する事態に陥り、仕入先の警戒感の高まりから着物の仕入れは難しくなっていたとみられる。

 さらに8月ごろからは、度重なる給与の遅配により従業員の離散が進み、店舗運営が困難になっているとの情報が入るなど、経営破綻の足音は刻々と近づいていた。

 こうした事態に至った際、経営者がまず真っ先に考えなくてはいけないのは、迷惑を被る取引先、利用客への説明責任やフォローだ。とくに着物レンタル業は利用客の、まさに「晴れの日」を担っているだけに、自社に何かあれば、利用客を金銭的だけでなく、心理的にもひどく傷つけることは容易に予想がつく。

 その点でS社長は、あまりにも無責任だったといわざるを得ない。

 「17年末まで新たな融資やリスケジュールのお願い、M&Aの実現に向けての取り組みなど対策を行っていた」と、最後まで顧客対応をすべく努力したというが、一縷(いちる)の望みをかけた交渉も全て不調に終わった。のちに明らかになったところによると、債務超過に転じてから、銀行の目をごまかすために粉飾決算も行われていたという。

 そして何ら実質的な解決策も示せないまま、数多くの同業者や、自社を選んでくれた利用客に対し、社長として人として、最低限行うべき事前連絡も何もしないまま、18年、あの大騒動が起こった成人の日を迎えることになったのである。

phot はれのひが入居していたビル(帝国データバンク提供)

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