格安旅行会社「てるみくらぶ」倒産の裏側に“キックバック依存経営”――多額の粉飾決算、社長らの詐欺あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る(1)(1/4 ページ)

» 2019年08月07日 05時00分 公開
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 1900年に創業した国内最大級の企業情報データを持つ帝国データバンク――。最大手の信用調査会社である同社は、これまで数えきれないほどの企業の破綻劇を、第一線で目撃してきた。

 金融機関やゼネコン、大手企業の破綻劇は、マスコミで大々的に報じられる。実際、2018年に発覚した、スルガ銀行によるシェアハウスの販売、サブリース事業者・スマートデイズへの不正融資問題などは、記憶にとどめている読者も多いだろう。それに反して、どこにでもある「普通の会社」がいかに潰れていったかについて、知る機会はほとんどない。8月6日に発売された『倒産の前兆 (SB新書)』では、こうした普通の会社の栄光と凋落(ちょうらく)のストーリー、そして読者が自身に引き付けて学べる「企業存続のための教訓」を紹介している。

 帝国データバンクは同書でこう述べた。「企業倒産の現場を分析し続けて、分かったことがある。それは、成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある」。

 もちろん、成功事例を知ることは重要だ。しかし、その方法は「ヒント」になりこそすれ、実践したとしても、他社と同様にうまくいくとは限らない。なぜなら、成功とは、決まった「一つの答え」は存在せず、いろいろな条件が複合的に組み合わさったものだからだ。一方で、他社の失敗は再現性の高いものである。なぜなら、経営とは一言で言い表すなら「人・モノ・カネ」の三要素のバランスを保つことであり、このうち一要素でも、何かしらの「綻(ほころ)び」が生じれば、倒産への道をたどることになる。

 そしてそれは、業種・職種を問わずあらゆる会社に普遍的に存在するような、些細(ささい)な出来事から生まれるものなのだ。実際、倒産劇の内幕を見ていくと、「なぜあの時、気付けなかったのか」と思うような、存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事」が必ず存在する。同書ではそうした「些細な出来事=前兆」にスポットを当てて、法則性を明らかにしている。

 本連載「あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る」では、『倒産の前兆』未収録の12のケースを取り上げ、「企業存続のための教訓」をお届けする。旅行シーズンが到来した第1回は、格安旅行会社として名を馳せたものの、粉飾決算と詐欺行為に手を染めて倒産した「てるみくらぶ」を取り上げたい。

――格安海外旅行業 てるみくらぶ

 航空会社からのキックバックを軸とした収益構造で、一般消費者向けに格安ツアーをネットで販売。対面販売が主流だった旅行業界で急伸するが、為替変動、他社のネット参入などの影響で業績が悪化していく。リーマン・ショック後の旅行業者の倒産として最大となり、大きな社会問題にも発展した同社の倒産は、いかにして起こったのか。

phot てるみくらぶが入居していたビル(帝国データバンク提供)

なぜ「格安ツアー」で利益が出るのか? カギは「キックバック」

 てるみくらぶは、1998年12月に設立。73年に設立された旅行会社、アイ・トランスポート社の「てるみくらぶ事業部」を前身とする。アイ・トランスポート社は、国内ではまだ珍しかった無店舗型旅行会社として、自社サイト「てるみくらぶ」を通じて一般消費者にツアー商品を直販し、急成長を遂げた。その後、アイ・トランスポート社から、てるみ社ほかへと事業が引き継がれ、グループ会社となって旅行事業を拡大していった。

 てるみくらぶは、一都市滞在型の海外パッケージツアーを主体に、ハワイやグアム、サイパン、韓国、台湾、タイなどのツアー商品を扱い、11年9月期の年売上高は約134億円を計上する。その利益構造の主軸となっていたのは、パッケージツアーを売り、飛行機の乗客を確保することで航空会社から支払われるキックバックだ。空席が多いままでの運行を避けたい航空会社は、座席数を埋めるために、旅行業者に集客をしてもらう契約を結んでいる。

 てるみくらぶも、一定期間に決められた座席数を一般消費者へ販売する(送客)契約を結んでいた。契約の内容では、月単位での送客数と送客を達成した場合の1人あたりの報奨金の額が決められ、航空会社から旅行会社にキックバックが支払われていた。

 例えば、1カ月に1000席の販売を航空会社と約束し、100%達成すると1人当たり数千円〜1万円ほどのキックバックが航空会社から支払われるといった具合だ。このとき、航空券の卸値は状況に応じて安くなるため、旅行業者は通常価格より安いチケットを一般消費者に提供できる。さらにキックバックを得ることで、1泊2万3000円といったツアーが赤字でも、採算がとれるような仕組みになっていた。

 12年までは円高が続き、宿泊代などの仕入れコストを圧縮することで収益を得ていた。しかし13年以降、円安基調の傾向が強まったことなどの影響で、13年9月期の年売上高は約61億5800万円、前年比47.3%減にまで落ち込む。ネット予約の旅行業者が次々と現れ、航空会社も自社で航空券をネット販売するようになったほか、飛行機の小型化などで座席数が余りづらい状況も追い打ちをかけた。

 こうした状況を打破するため、てるみくらぶは、これまでの「安い・近い・短い」プランから、新たに付加価値の高いヨーロッパ周遊クルーズのプランを企画。富裕・シニア層をターゲットに、これまでWeb主体だった広告宣伝をテレビや新聞広告にも広げた。

 さらに、リピーターを増やすため、対面販売にも力を入れようと大阪、札幌に支店を開設。差別化された周遊プランと広告の効果もあって、15年9月期の年売上高は約140億円と増収。ただし出店費用や添乗員採用に伴う人件費などで、収益は悪化していた。

 そうしたなか、15年にグループ企業の「自由自在」社を先導していた取締役が退職。自由自在が運営していた旅行ツアー通販サイト「さわやかプラス」事業は、同年4月にてるみくらぶへ統合され、新たに自社サイト「自由自在」を開設する。こうしたグループ内部での度重なるブランド転換も、収益性悪化の要因となった。

phot てるみくらぶへの問い合わせ窓口
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