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1万7000人の新卒が殺到する中小企業社長が語る、優秀な人材の集め方(2/3 ページ)

» 2019年12月06日 07時00分 公開
[らいらITmedia]

「この人が辞めたらわれわれに問題がある」という人材を採る

―― 採用以後の離職率を下げるような取り組みはありますか?

近藤 2つパターンがあって、新卒採用の経験がある会社とそうでない会社の離職率は当然異なります。新卒採用を始めたばかりのときは、育成体制やマニュアルができていないので、離職要因は多いです。だから「体制ができたら新卒採用する」という会社がありますが、それを待っていると何十年も先になるので、先に採用します。その際は中途半端な人材でなく、いい意味で現場が慌てる人材を採る必要があります。

―― といいますと?

近藤 「この人が辞めてもまた採用すればいいや」となる人材ではなく、「この人が辞めるのはわれわれに問題がある」と自分たちにベクトルが向くくらいの人材を入れなければいけません。その結果、おのずと既存社員の意識や、育成に対する姿勢、採用に必要な仕組みが整ってきます。新卒採用を始めて最初の3年程度は若干離職者が出る可能性がありますが、続けていくと人材の定着性が上がっていきます。

―― 採用活動によって自分たちの課題も浮かび上がってくるから、それを解決するための仕組みや体制が作れるわけですね。裏を返せば、新卒活動をしなければ自分たちにどこに問題があるか見えてこないと。

近藤 新卒採用はつい人材を“選ぶ”活動のように思いがちですが、最後は採用段階で選んでもらい、入社後も選び続けてもらわなければいけません。採用活動は「選ばれる会社になれるかどうか」が肝なのです。採用は命を投資していただく活動だからこそ、その投資に値する会社を作っていかなければいけない。

 もし魅力的な人材が他の会社を選んだとき、「経営者である自分やうちのスタッフがどう磨かれていたら、僕らと働くと意思決定をしてくれただろうか」とリアリティーの高い状態でフィードバックされます。だから、採用活動では自分たちこそが磨かれていきます。「魅力的な人材がひきつけられる社員の集団になろう」と思えるのが、新卒採用プロジェクトのいいところです。

「常識」にはまると採用は失敗する

―― レガシードは2021年3月卒業予定の学生を対象に調査したインターン人気企業ランキングにおいて、大手企業を含めたなかで総合10位を獲得しました。インターンシップの位置付けはどのように考えていますか。

社内は集中できる場所、くつろげる場所、コラボレーションに適した場所など業務の内容に合わせて働くスペースを変えられるフリーアドレス制になっている。宇宙船をイメージしたユニークな会議用スペースもある

近藤 今学生の8割がインターンシップを受けていて、1人あたり4社も行っています。大学3年生、場合によっては2年生、当社は高校生も来たりするので、早い段階でスマートフォンから自分に合うインターンシップを探して、応募して、活動を進めていきます。そのなかでいい会社が見つかれば、採用活動が始まるころには意思決定できるという流れになりつつあります。

―― インターンシップは採用活動において必須のものになっていきそうですね。

近藤 さらに、中小企業にとってメリットなのは、インターンシップを実施することでミスマッチの削減につながることです。筆記や面接なんて、最もやってはならない選考方法だと思いませんか? 野球選手のスカウトなら、投球させたり走らせたり、練習させたりしますよね。なぜ一般企業では筆記や面接で見るのでしょうか。「実際に働かせてみてどうか」で判断できるようにするために、前段階で行えるのがインターンシップ制度です。

―― 実際に学生に働いてもらう際、例えば5年後を見据えた新しいビジネスに対するスキルなどもあると思います。

近藤 本来は文部科学省や大学がやってほしい話ですが、その意味では、会社側が教育の場を作っていく必要があります。前述した通り、選考プロセスには基本的に「採用を判断する」「会社を魅力づける」の2つがありますが、当社ではそこに「育てる」という概念を加えています。

 インターンシップや選考に参加するほど、働く姿勢が作られていったり、仕事への理解が深まったり、スキルが上がっていったりするプロセスを経て、ある程度伸びる人材を採ろうとしています。そして、長期インターンでさらに育てていく流れをくんでいるので、育成に対する投資が会社側にも求められます。

―― 具体的にはどのような人材を見極めていくのでしょうか。

近藤 今までの中小企業は、どちらかといえば言われたことを素直にやるような「オペレーション人材」を新卒で採用していました。ただ、ロボットやAIが仕事を代替する時代には、そのような人材はだんだん不要になります。これからは、クリエイティビティとイノベーションを掛け合わせた「創れる人材」を採っていく必要があります。

 しかし、そのような人材を中途採用しようと思うと、中小企業はコストと環境を用意しなければいけません。二刀流の大谷選手を中途で採るのは大変です。しかし新卒なら採れるのです。

―― ということは、「創れる人材」を新卒で採るためには、会社側の姿勢づくりも大切ですね。どんな優秀なスキルを持っていても、それが生かせない環境では宝の持ち腐れです。

近藤 人は負荷を与えられないと成長しないので、そのような環境づくりが重要です。また、インターンの中身を作るときのポイントは、学生、社員、会社の全てにとってプラスでなければ絶対に続かないということです。

 ありがちなのが、学生を満足させるためのインターンになってしまい、会社の収益性や生産性の向上につながらないケースです。結局労力だけ取られたり、ノウハウが流れたり、うまく採用につながらなかったりすると意味がないですよね。活動を通じて社員のプラスになる必要があります。

―― 企業によっては、1日程度、与えられた仕事をちょっと手伝って終わり、みたいなこともありますね。

近藤 それだともったいないです。会社にとっても顧客が増えたり、最終的に利益や経費削減につながったり、インターンを通して何かメリットを生むという視点が重要です。採用チームが「現場や社長にあれこれ言われたくない」と内々で進めてしまうと、1Dayの会社説明会の延長線上みたいな内容になって、学生も面白さを感じられない結果になってしまいます。

―― 学生時代にそんなインターンシップを受けた記憶があります。

近藤 「楽しませるインターン」ではなく、いい意味で悔しさを体験させるのは大事です。当社のインターンでは、終了後に半数以上の学生が「悔しかったです」と答えます。そういう学生は根本的に成長できる環境を好む人間ですから、当社にもフィットしていきます。

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