断捨離で人はなぜ“人生リセット”したがるのか――「自己啓発と意識させない自己啓発」ブーム日常に抵抗無く忍び込む“倫理”(2/4 ページ)

» 2019年12月12日 08時00分 公開
[真鍋厚ITmedia]

 しかも、「お片付け」=整理整頓という中立的な身体性から介入するため、世間に流布している「自己啓発のイメージ」に支配されるということがありません。しかし、例えば近藤氏の代表作『人生がときめく片づけの魔法(改訂版〕』(河出書房新社)には「家の中を劇的に片づけると、その人の考えや生き方、そして人生までが劇的に変わってしまう」と書いてあります。

photo 断捨離では「部屋を片付ければ人生も変わる」と説く言説も実は少なくない(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 これが事実であればすごいことです。つまり「情報商材」のようなハードルを感じさせない、「お部屋からの革命」という洗練されたアプローチを確立しているのです。「自己啓発」としてまったく意識させない「自己啓発」といえるでしょう。

実は「人格改造」「性格改善」に相当!?

 近藤氏は、「片付けをしたあと、仕事も家庭も、なぜか人生全般がうまくいきはじめる」と結論付けています。

 要するに、「お片付け」が結果として「人間関係」の改善にまで波及するということなのです。ただし、その前提として、「片づけにおける正しいマインドを身につけ、あなたが『片付けられる人に変わるための方法』」(前掲書)とある通り、「正しいマインド」を習得することが不可欠です。「自己啓発」の文脈で言えば「人格改造」や「性格改善」に当たる部分です。

 確かに「マインド(精神)」が変われば、仕事や趣味、交友関係も当然その影響を受けるでしょう。「断捨離マインド」は「モノからヒトへ」と容易に移行するのです。もともと「変わりたいと思っている人々」が、駆け込み寺的に「お片付け」という手法の助けを借り、「人生をリセットする」といったケースはその最たるものでしょう。

 断捨離ブームの生みの親、作家のやましたひでこ氏は、「断捨離とは、モノへの執着を捨てることが最大のコンセプト」と言っています。「モノへの執着を捨てて、身の周りをキレイにするだけでなく、心もストレスから解放されてスッキリする」というわけです(同氏の公式Webサイトより引用)。

 そして、断捨離を実践した多くの人々の声として「仕事や他人との関係性も見直すことができた」「自分軸をもっと大切にする生き方ができるようになった」などが紹介されています。

 要するにこれは、近藤氏と同じく「モノとの向き合い方」を通じた「自己啓発」です。それは、「モノを捨てることの本当の意味」を知らなければ、あまり効果はないと述べていることからも明白でしょう。つまり、モノと関係性を入り口にすることで“生き方”を問うているのです。断捨離ブームの傍流として、ビジネスシーンを含む「人間関係の断捨離」が登場するのは、ある意味で必然といえるでしょう。

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