2020年に発行か? 中国が「デジタル人民元」に抱く、危険な野望世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2020年01月09日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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中国が米国の“監視”を逃れるリスク

 さらに現在、ビジネスや個人による海外送金のほとんどは、国際間の資金決済システムである「SWIFT(スウィフト=国際銀行間通信協会)」のシステムで行われている。このSWIFTは米国の監視下にあるとも言える。例えば、米政府が企業や個人に経済制裁を課すような場合には、SWIFTを使えなくするといった具合だ。つまり、SWIFTを支配する米国が世界の金の流れを管理しているということになる。

 そうした米国の覇権を打ち崩したい中国は、15年に独自で人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)を立ち上げている。だがそれよりも、デジタル人民元が国際間で最も使われるようになり、決済などを監視できるようになれば、米国の影響を気にすることもなくなる。現在のような監視状態ではなく、思うがままに動けるのである。世界のカネの流れを手中に収めることも可能だろう。中国はそれを目指している。

 そうなれば、中国政府が目指す「2049年までに世界制覇」という目標もグッと近づくのだ。2049年は、中国共産党革命の100周年に当たる年である。

 この話は、日本にとっても対岸の火事ではない。例えば今、北朝鮮の核・ミサイル開発が大きな問題になっており、冒頭でも触れたように、直近でも緊張感が高まっている。

 現時点では米国などの経済制裁と、国際間での決済のやりとりを見られていることから、北朝鮮は思うように部品などを調達できない。だがデジタル人民元を使えば、中国政府のさじ加減で、問題なく部品調達もできるようになるだろう。デジタル人民元の決済の流れを、米国などは決してチェックすることができないからだ。そうなれば、日本にとっても、北朝鮮の兵力が高まるなどといった「リスク」がどんどん高まっていくことになるのである。

 そんな危険性をはらんだデジタル人民元が20年にも発行されると言われている。日本や米国のような西側の国々にとっては、長期的に見れば、最近の北朝鮮やイランの混乱と引けを取らないくらいのニュースかもしれないのである。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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