中国の超大国化がリスクに 新型コロナウイルスで表面化した「アジア人差別」と日本世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2020年02月06日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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中国人が東アジアの“代名詞”になる現実

 ちなみに以前、日本人とマスクが取り上げられた英紙の記事で、「米国など欧米ではマスクを付けることに対して、大衆に拒否反応がある。マスクは個人の自由を信じるリベラリズムに反するからだ」という分析を見たことがあるが、そんなことよりも、ただ単に何か異常を感じたら欧米人はすぐに学校や会社を休む傾向が強く、すぐに薬に頼るという部分があるからのような気がしてならない。

 欧米では今、マスクをしている人を街で見かけたら、自動的に「ウイルス」「中国人」という言葉が頭に浮かぶのではないだろうか。それが日本人であっても。

 とにかく、欧米では、日本人を含めたアジア人がまとめて「差別」に遭っているケースも少なくないということだ。もちろん長く欧米に暮らしていて、周囲からも日本人であることが認識されている人はこのケースには当てはまらないだろうが、世界地図で日本の位置が分からないような人もいる米国などでは、東アジア人はみんな同じである。みんな、新型コロナウイルスが発生し、蔓延(まんえん)しているアジアから来たと見られている可能性がある。

 由々しきことだと思う人もいるだろうが、それが現実だ。そして問題は今回の新型コロナウイルスだけにとどまらない。

 中国はこれから世界的にどんどん台頭し、大国になっていくだろう。その中で自分たちの価値観を押し通して傲慢になり、今以上にいろいろな国と摩擦を起こす可能性がある。そうなれば、世界では反中意識がこれまでにも増して高まるに違いない。そこで問題なのは、欧米人の目から見れば中国人も日本人も見た目が同じであるため、世界からの嫌悪の対象に日本人も巻き込まれてしまう可能性があるということだ。

 こうした流れは、海外と仕事をするビジネスパーソンにも無関係ではない。海外で働く日本人も、中国人と同じ価値観のアジア人としてひとくくりに見られることも増える。ビジネスにおいて「反中」意識が作用するなら、日本人にもその悪影響がおよぶケースも少なからず出てくるだろう。今回の騒動も、長期的に日本人の国外での経済活動にリスクとなり得るのだ。

 新型コロナウイルスによって、それをあらためて確認することになった。中国人が東アジアの代名詞になる現実を、日本人も受け入れなければならないときがもう迫っている。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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