日本の若者が「それでも」韓流に熱狂するワケ――中高年が理解できない深層心理誤解だらけの日韓関係を問う(3/5 ページ)

» 2020年02月17日 07時00分 公開
[澤田克己ITmedia]
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SNSが韓流ブームを促進

 李氏はさらに、世界に先駆けて韓国が情報化社会に移行したことを韓流の基盤として挙げた。それは、インフラ整備の遅れた後発国の方が先進国よりデジタル基盤の整備を進めやすいという世界的な現象に通じるものだ。既存の資産をどうするか悩まなくていいし、デジタル基盤は安価に構築できるからだ。

 李氏は「私たちはアナログ時代に乗り遅れたからこそ、デジタルの世界に直接入っていけた。日本のように産業化時代の蓄積が多かったら、それに手足を取られて先へ進むのに苦労しただろう。災い転じて福となすと言うが、後発の利益を享受できたのは運が良かった」と話していた。

 繰り返し指摘されることだが、ここ数年の韓流ブームの背景には、スマホの登場とソーシャルメディア(SNS)の急速な普及がある。

 SNSは子供たちの世界にも大きな影響を与えている。小学生や中高生の世界では今、人気や影響力の大きさを「スクールカースト」という言葉で表現する。カーストの上位にいる女子は、みんながあこがれるものを持つ「おしゃれ」な子たち。

 飯塚さんが中高生だった2000年代半ばには携帯電話、数年前からはスマホを持っているかどうかが大きな要素になった。

 SNSを通じた情報収集で「おしゃれ」を演出するカースト上位の子供たちの間でまず、韓流グッズが「かわいい」と拡散され、それが周囲に広まった。いま流行している韓流は、基本的にすべて「インスタ映え」するのである。

 ただし、家庭の教育方針の影響でこうしたカーストに入ってこない子供たちも一定数いて、こうした子たちは韓流にも関心を示さない。だから「中高生の間で韓流ブームだというけれど、うちの子供の周囲にそんな子はいない」という大人が出てくるのだという。

 そうした認識ギャップは、現代の社会構造を考えれば不思議ではない。インターネットの発達によって個人の趣味や好みが細分化され、それでも十分に本人は楽しめる状況になった。

 ネット用語で「クラスタ」と呼ばれる特定のグループの中で爆発的な流行が起きているけれど、そのグループに属していない人々には全く関心を持たれないことなど日常茶飯事である。

 大みそかのNHK紅白歌合戦という番組は今も続いているけれど、昔のような国民的アイドルなどいないし、そもそも家族全員が知っている歌手や歌すら珍しくなってしまった。第3次韓流ブームも同じことで、関心を持っていない人の視界には入ってこないのだ。

 1960年代以降のカルチャーシーンを大学時代に研究した飯塚さんはさらに、韓流ブームにはカウンターカルチャーとしての機能があるのではないかと見ている。かつてのビートルズやミニスカート、みゆき族と同じように、年長者が理解できないからこそ若者の間で人気が出るということだ。日本と韓国の若者が共に息苦しさを感じていることで、互いにシンパシーを感じる部分もあるのではないかという。

 「大人たちが若者を切り捨てているのは、日韓とも同じこと。社会問題に対する意識は、日本と韓国の違いより、世代間の違いの方が大きい。子供や若者は、大人たちが考えているほど単純ではありません。若者が社会問題に関心を持っていないと言うけれど、政治は若者に向き合ってきたと言えるのでしょうか」

 飯塚さんの問いかけに、上の世代はどう答えればいいのだろうか。

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