新型コロナで揺れる大型クルーズ船 そのとき「ダイヤモンド・プリンセス」にできたことを考えるクルーズ市場最前線(2/3 ページ)

» 2020年03月05日 08時00分 公開
[長浜和也ITmedia]

航海中のダイヤモンド・プリンセスで何ができたのか

ダイヤモンド・プリンセスのブリッジ。日本の寄港国管轄権に基づいて検疫作業を実施していたが、船内は船長(そして、運航会社であるプリンセスクルーズと親会社のカーニバル、そして、米国CDCと連携しつつ)をトップとする指揮系統で動いていた

 以上のように、過去の経験を反映したガイドラインとCDCのアドバイスによって、ダイヤモンド・プリンセス(に限らず世界中の船舶全て)では出港時から航海中において、新型コロナウイルス感染予防対策として、主に次のようなことを実施することになっていました。

  • 過去14日間特定地域にいた乗員と船客を上船させない
  • 上船時における自己申告による体調チェック
  • 体温38度以上で新型ウイルスに感染した疑いのある人の隔離
  • 発症者をケアする乗員の数を極力減らしその上院に個人用保護具を着用させる
  • 次に入港する港湾機関への通報

 このように、対策の対象は「発症した人」(加えて発症した人に接触する限られた乗員)に限られています。当時の知見(これはCDCのガイドラインも同様)では、レストランやデッキなど公共施設を閉鎖し、全ての船客と乗員に対してそれぞれの船室に停留するように指示するのは困難だったといえます。

 なお、国際船舶医療ガイドには、換気に関する項目を設けています。ここでは、多くの船舶で採用している循環式空調システムが感染症を拡散する可能性を指摘しており、その対策として、独立した換気システムを備えた医療区画に収容することを指導しています。また、一般船室に収容するしかない場合は可能な限り換気ができるように窓を開ける(窓のない船室ではドアを開ける)必要があるとしています。

検疫におけるダイヤモンド・プリンセスの立ち位置とは

 横浜に入港したダイヤモンド・プリンセスでは、2月5日から検疫作業が始まりました。それから2月19日までの14日間にわたり、船客は自分たちの船室にとどまり続けることになりました。この間、発表される船内感染者の数が日々増えていき、船の内外から当事者に対する応援の声とともに懸念の声も増えていったのは、テレビや新聞や雑誌やSNSで報じている通りです。

 船客の感染時期については、検疫による船室停留実施前か後かについて今後検証する必要がありますが(国立感染症研究所のレポートでは暫定的な結論として「2月3日にクルーズ船が横浜に入港する前にCOVID-19の実質的な伝播が起こっていた」としている)、検疫にかかわった職員が感染し、ダイヤモンド・プリンセスの乗員に感染が広がっていた可能性があること、そして、船内における感染防止策が十分でなかったとする指摘もあったことなど、今後、客観的なデータと事実確認を踏まえた検討とそのフィードバックが必要です。

 ダイヤモンド・プリンセスにおける検疫と船室への船客停留は、寄港国管轄権に基づいて日本の法律である検疫法を根拠に実施しています。ここで注意しておきたいのが、隔離を目的とした検疫法第十五条ではなく、停留を目的とした検疫法第十六条によってダイヤモンド・プリンセスの船室に船客を留めていることです。

 第十五条も第十六条も収容施設として感染症指定医療機関を定めています。ただし「感染したおそれのある者」(検疫法第十四条の表現)を対象とした停留措置は「宿泊施設の管理者の同意を得て宿泊施設内に収容し、もしくは船舶の長の同意を得て船舶内に収容して行うことができる」と定めています。チャーター機で帰国した人が“感染したおそれのある者”として、政府の宿泊施設や民間のホテルに停留しましたが、ダイヤモンド・プリンセスも、検疫法における停留措置では民間のホテルと同じ扱いといえます。

 厚労省は感染症指定医療機関の病室について基準を設けています。そこでは、室内気圧制御からトイレの構造、空調設備(再循環式の場合に用いるフィルターの種類も指定)など、細かい条件があります。一方、宿泊施設については「個室が整備され、仮に発症した場合にまん延防止措置をとることが可能な」といった言及がありますが、船舶については特に条件を設けていません。そのため、感染防止は運用によって実現を目指すことになります。

 ただし、外国船籍の船舶内部において、検疫を実施する人たちの感染防止は厚労省をはじめとする日本の組織が実施する一方で、乗員と船客は船長が指揮する権限を持ちます。検疫に必要な行動は日本から船長に指示して、船長の指揮のもとに乗員が協力することになります。

 この場合、検疫に携わるスタッフの防疫は日本側で直接指示できますが、乗員の防疫は、それまでの船舶衛生ガイドと船舶医療ガイド、CDCと連携したカーニバルの指示をベースに船長の指揮で日本側のアドバイスを“順守”させることになります。船客の行動も同様になりますが、その徹底は船客と乗員の関係を考えると難しいと思われます。

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