新型コロナで京都・訪日客消滅――“人よりサルが多い”非常事態に迫る京都在住の社会学者が迫真ルポ(2/4 ページ)

» 2020年03月09日 08時00分 公開
[中井治郎ITmedia]

「人間よりサルの方が多いとか、久しぶり」

 新型コロナウイルスの感染拡大を理由に中国が海外への団体旅行とパック旅行の販売を中止したのは1月27日。しかし、2月も中旬に入る頃には中国以外の国々においても渡航自粛や制限、そして「訪日忌避」の動きが広がる。京都のホテルや旅館においても、中国に限らず各国の予約客からのキャンセルが相次ぐことになった。そして、現れたのが数十年ぶりに人のいない京都である。

photo いつもなら観光客でごった返している嵐山・渡月橋も歩く人はまばら(筆者提供)

 しかし、このことが逆に「京都が空いている!」「今こそ良い写真が撮れる」「これこそ本来の京都の姿」とSNSなどで話題となった。さらにはこの苦境を逆手にとり嵐山の5つの商店街が合同で「スイてます嵐山」キャンペーンを展開。「人間よりサルの方が多いとか、久しぶり」などのキャッチフレーズで、外国人観光客の急増に押されて近年は減少傾向にあった日本人観光客の呼び戻しを図った。

 「今回ほど、ああ京都でよかった、と思ったことはないですね」

 普段であれば数カ月も前から外国人客の予約で部屋が埋まっていくという京都の人気旅館のマネジャーはそう語る。今では、外国人客がキャンセルした分を当日や宿泊日直前に「ふらっと予約してくる」日本人客が埋めてくれているという状況だという。

 近年の日本人観光客が「京都ばなれ」の傾向にあったといっても、その理由は日本人が京都に関心をなくしたからというわけではなかった。「機会さえあれば」と様子をうかがっていた潜在的な京都ファンが、「空いている京都」のうわさを聞きつけて京都へ帰ってきているのである。いつもなら予約の取れない人気の宿に泊まり、いつもなら撮れない静寂の景色を撮る。そんな彼らが京都観光の苦境にあってぎりぎりの生命線となっているのだ。

 近年のインバウンドブームの中ですっかり外国人観光客向けに塗り替えられたと苦言を呈されることも多い京都だが、古都への憧れはまだまだ日本人の中にも生きていたということだろう。京都ブランドの底力である。

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