新型コロナで京都・訪日客消滅――“人よりサルが多い”非常事態に迫る京都在住の社会学者が迫真ルポ(4/4 ページ)

» 2020年03月09日 08時00分 公開
[中井治郎ITmedia]
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「観光は水もの」という真実

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大と比較されることの多いSARS流行時の2003年。中国のGDP世界シェアは約4%であり、その影響はまだ限定的であった。

 しかし、今やそのシェアは世界2位の約16%まで拡大し、03年には約44万8000人にすぎなかった中国人訪日客は19年には約959万4000人と、実に20倍以上となっている。だからこそ、その中国から始まった今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、SARS流行とは比べものにならないほど大きな影響を世界に、そして日本社会に与えることが確実視されているのである。

 すっかり変わってしまった錦の様子を眺めながら鮎の塩焼きを炙(あぶ)ってくれたおばちゃんが、「中国っちゅうのは、ほんま大きい国やねんなあ」とため息をついていたのが印象的だった。

 今回の危機は、多くの人にとって日中関係や国際社会のあり様、そして観光産業のあり様がそれまでとは変わってしまったことを体感するきっかけとなったのではないだろうか。

 観光業はその不安定さや「ままならなさ」から、「水もの」といわれることも多い。観光こそ、その時々の社会の風向きにもっとも敏感に、そして根こそぎに左右される営みなのである。日本で最も息の長い観光都市であり、35年前の出来事のように、何度も「街から観光客が消える」という事態を経験してきた京都ほどそのことを痛感している街もないだろう。

中国人ら訪日客は戻らないのか?

 とはいえ、今回の危機が終息する頃にはもう中国人をはじめ外国人客は日本や京都に興味を失ってしまっているのではないだろうか。「今は仕事が無さすぎて週3勤務ですよ」と言う、旅行会社に勤める中国人の友人に話を聞いてみた。

 「いや、たぶん逆ですね。今回、日本に来れなかった人たちも含めて、いま中国にいる人たちの『日本に行きたい!』という気持ちを逆にすごく感じています。ずっと家にいるので、もうみんな我慢できないくらい」。

 「今回のことが終わったら、めっちゃ来ますよ」そう言って彼女は笑った。

 京都の夏の風物詩、祇園祭。千年以上の歴史を持つ祭事であるが、これはそもそも疫病退散を祈願するものであった。祇園祭の頃には、現代の「疫病」がもたらした危機は終息しているだろうか。いずれにせよ、「いけず」も言えなくなった京都なんて、どうにもつまらない。

 「コロナ?ああ、そうどしたか。なんや、道が歩きやすいなあ思てましたわ」

 そんな強がりが聞こえてくる「いつもの京都」が早く戻ってくることを願うばかりである。

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