新型コロナで延期となった東京五輪 「無観客」でも分かれた各界の対応と問われる「スポーツビジネス」の本質池田純のBizスポーツ(3/3 ページ)

» 2020年04月01日 05時00分 公開
[池田純ITmedia]
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「親会社文化」から脱却しきれるか

 一方で、日本のスポーツは「親会社文化」が根強く、広告宣伝費や放映権料に依存してきた歴史があります。無観客で行われた大相撲を見ていると、観客のためか、放送のためか、神技としての成り立ちとは別に、その意義を改めて考えさせられます。各スポーツは親会社や組織か、ファンか、どこを向いているのかが、新型コロナウイルスを巡る対応を通じて、とても明確に分かるといえるでしょう。

 そういった意味では、プロ野球やJリーグが、無観客ではなく延期を選んだのは賢明な選択でした。同時に、延期を選んだプロ野球やJリーグは興行、ライブエンターテインメントとして、観客を入れないと成り立たない形にビジネスの構造が変わりつつあるともいえます。私がベイスターズの球団社長に就いた、まだスポーツビジネスという概念が一般的でなかった当時なら、また違う選択だったかもしれません。

 ベイスターズでは、本拠地・横浜スタジアムのスタンドに閑古鳥が鳴いていた当初、選手のミスに対するヤジがハッキリと聞こえてきました。これが満員になると、溜息へと変わります。溜息、落胆は選手のメンタルにかなりこたえます。そして、それが選手たちの“火事場の馬鹿力”を生むのです。

無観客では盛り上がらないし、ビジネスも成り立たない

 プロスポーツは、お客さんのザワザワとした反応を含めて、全てがライブエンターテインメント。誰も見ていない中で好プレー後のパフォーマンスを披露しても、本塁打予告のポーズをしても、寒いだけでしょう。極端な例で言えば、プロレスを無観客でやっても全く盛り上がらないのと一緒です。観客とのコミュニケーションがないと、こうしたプロスポーツは成り立ちません。

 スポーツ選手、スポーツの運営会社はYouTuberとも異なります。テレビ放送、ネット配信で見てもらうことで成り立って、お金が発生している、稼いでいるわけではなく、見に来てくれるファンがいて、そこで入場料やグッズ代金を支払ってもらうことで生活が成り立っています。それを考えれば、プロスポーツが「どこを向くべきか」は明確です。新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされるスポーツ界。こういうときこそ「誰がどこを向いているのか」という本質が鮮明に見えてきます。

著者プロフィール

池田 純(いけだ じゅん)

早稲田大卒業後、博報堂等を経て2007年にディー・エヌ・エーに参画。

2011年に35歳という史上最年少の若さで横浜DeNAベイスターズの初代球団社長に就任。

2016年まで社長を務め、さまざまな改革を主導し球団は5年間で単体での売上を倍増し黒字化を実現した。

退任後はスポーツ庁参与、明治大学学長特任補佐、Jリーグや日本ラグビー協会の特任理事等を歴任。

現在はさいたま市と連携しスポーツで地域創生、地域活性化を図る(一社)さいたまスポーツコミッションの会長も務める一方、

大戸屋やノジマ等企業の社外取締役からITやゲーム業界、スタートアップ等の顧問も務める。

池田純公式サイト「Plus J」: https://plus-j.jp/


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