インタビュー
» 2020年04月01日 08時00分 公開

ダイヤモンド・プリンセス日本発着の仕掛人に聞く:新型コロナで打撃のクルーズ業界、「再浮上」のために何をすべきか――カーニバル・ジャパン元トップに聞く (1/2)

新型コロナウイルスの影響でイメージが低下した豪華客船業界。この苦境を乗り切るために何をすればいいのか。ダイヤモンド・プリンセスの日本発着クルーズが始まった当時にカーニバル・ジャパンの社長を務めていた木島榮子氏に話を聞いた。

[長浜和也,ITmedia]

 COVID-19(俗にいう新型コロナウイルス感染症)の集団感染がダイヤモンド・プリンセスなど複数の大型客船で確認されたのは2月の初めのことだった。あれから間もなく2カ月が過ぎようとしていている。

 ダイヤモンド・プリンセスでは、3月下旬時点で全ての船員と船客の下船が終わり、船内の清掃と消毒作業を開始した。ダイヤモンド・プリンセスは当初、4月末から日本発着巡航を再開する予定だったが、所有する全客船において3月12日から2カ月に及ぶ運航中止を決定した。

 新型コロナ罹患者と流行地域の拡大は、全ての経済活動に大きな影響を及ぼしている。クルーズ業界においては、主要クルーズ船社が1カ月から2カ月にわたって運航を中止し、2020年にアジア海域で予定していた巡航計画を取りやめている。そして、ダイヤモンド・プリンセスにまつわる数多くの報道によって、多くの日本人がクルーズに対して悪いイメージを持ってしまった。

新型コロナウイルスの集団感染で騒がれたダイヤモンド・プリンセス

 四面楚歌のクルーズ業界は、この苦境を乗り切るために何をすればいいのか。何かできることはあるのか。

 50年にわたって日本のクルーズ市場をけん引し、幾多のクルーズプランを実施してきた“開拓者”の一人である木島榮子氏にこの騒動に対する率直な思いを聞いた。同氏は現在、クルーズプランの提案と販売を手掛ける「クルーズバケーション」代表取締役社長として活動しているが、ダイヤモンド・プリンセスによる日本発着クルーズが始まった当時のカーニバル・ジャパン代表取締役社長を務めていた(20年3月11日取材)。

── クルーズ業界にとって大変厳しい情勢ですが、今の率直なお気持ちは。

木島 日本のクルーズ市場にとって非常に大きな打撃になりました。数多くの報道で取り上げられて、船の中がとても狭い空間で自由が利かないという印象を植え付けてしまいました。それが非常に残念です。また、船客が検査で陰性となって下船したのに、周囲の方に迷惑を掛けるのではと心配して家から出られないという話を聞くと本当にお気の毒だと思います。とにかく、クルーズに対するマイナスのイメージが強くなってしまいました。

 ダイヤモンド・プリンセスが外国船だったことも(イメージが悪くなった1つの理由として)あると思います。ただ、このダメージは日本の客船にも及んでいます。

 一度船旅を経験したリピーターの皆さんは、広い船の中を自由に行動できて、乗員がきめ細かく世話をしてくれて、いろいろな観光地を楽に移動できる、という船旅の良さを理解しています。しかし、初めての人や内側の窓のない船室を使われた人は、つらい思いをされてしまったと思います。そして、報道では全員がそうだったように伝わっています。ダイヤモンド・プリンセスは、内側の船室が他の客船と比べて少なく船内は開放的ですが、やはり内側の船室に滞在した船客の対応が一番大変だったと思います。船が空いていれば船室を変えることもできたのですが、あのクルーズは満船だったので、それもできなかったそうです。

 同じ時期に他の外国客船でも感染者が出ていますが、全て海外のことで日本ではほとんど報道されていません。それだけにダイヤモンド・プリンセスに多くの関心が向かうことになりました。また、同じプリンセス・クルーズの「グランド・プリンセス」が米国サンフランシスコ沖で感染発生が判明したのもプリンセス・クルーズにとって痛手でした。

50年間にわたって日本のクルーズ市場をけん引してきた木島榮子氏

── 過去にもクルーズ業界に大きなダメージを与えた事案がありましたが。

木島 11年にニューヨークで起きた9・11同時多発テロでは、クルーズに限らず航空業界など旅行業界全体に大きな影響がありました。鳥インフルエンザ、SRAS、MERSといった新型インフルエンザの流行でも海外旅行業界にダメージがありました。当時、日本発着のクルーズはほとんどなく、海外にある発着港まで飛行機で往復するフライ&クルーズが主流でしたが、今回ほどの影響は受けていません。

 ただ、SRASもMERSも主な流行は海外で起きています。そのため、日本では今回ほど身近な問題とならず、どの事案でも3カ月程度で市場は回復しています。海外のクルーズ船社は市場回復のための大規模なプロモーションは実施しておらず、旅行会社に安全対策を説明して顧客への周知を依頼する程度でした。

 確かに船は閉じられた空間ですから、消化器系感染症の「ノロウイルス」の集団感染が一時期クルーズ業界で大きな問題になりましたが、今では危機感を伴って話題になることが少なくなりました。その多くは海外で発生するため日本で報じられる機会もほとんどありません。また、感染した場合でも死亡することはなく、感染者の隔離も船室内で48時間と短いため影響は少ないといえます。クルーズを利用する人たちも、そのリスクを許容範囲と認識しています。それゆえに、いまノロウイルスの集団感染の可能性を問題にすることはほとんどありません。

 しかし、今回のダイヤモンド・プリンセスの案件は、日本で発生し入港した横浜から連日大きく報道されました。そのため、これまでの同時多発テロや新型インフルエンザの流行とは比べものならないほど大きな衝撃を日本人に与えてしまいました。今回の危機は今までの逆風とは全く違うもの、という認識です。

── このダメージから日本のクルーズ業界が復活するために何ができるでしょうか?

木島 とにかく、まずはCOVID-19が沈静化するのを待つしかありません。そして、治療薬やワクチンなどの実効力のある感染予防のガイドラインが用意できて、COVID-19に対して安心できる状況が整う必要があります。

 また、今回の体験を生かしてより安全な対策が用意できた段階で、そのことを多くの人に知ってもらうことが必要になります。ただ、それまでには長い時間がかかるかもしれません。

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