誰も頼れず孤独死も…… 新型コロナがあぶり出す、家族と社会の“ひずみ”河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/5 ページ)

» 2020年05月08日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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40年前の理念を掲げ続けている

 そもそも日本の社会保障は、さかのぼること40年前の1979年、大平正芳首相のときに自民党が掲げた政策方針である「日本型福祉社会」が現在でも踏襲されています。

 日本型福祉社会の社会福祉の担い手は企業と家族であり、「結果の平等」を追求するような政策は「堕落の構造」を生むという考えに基づいています。北欧に代表される「政府型」や、米国に代表される「民間(市場)型」じゃない、「とにもかくにも、“家族”でよろしく!」という独自路線の福祉政策が日本型福祉社会です。

 1986年に『厚生白書 昭和61年版』として発表された社会保障制度の基本原則では、上記の「日本型福祉社会」の視点をさらに明確化し、「『健全な社会』とは、個人の自立・自助が基本で、それを家庭、地域社会が支え、さらに公的部門が支援する『三重構造』の社会である、という理念にもとづく」と明記。2006年に政府がまとめた「今後の社会保障の在り方について」でも、40年前と全く同じことが書かれています。

 想像以上のピッチで高齢化が進み、家族の稼ぎ手も家族のカタチも変わったのに、40年前と同じ理念を掲げ続けている。ライフスタイルの変化にも全く即していないのです。その“ひずみ”がコロナ禍で表面化した。「パンドラの箱」が開いてしまったのです。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)。


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