なぜ起こる? 欧州、電力マイナス価格の謎に迫る欧州の電力市場の仕組み(3/6 ページ)

» 2020年05月11日 07時00分 公開
[Masataka KodukaITmedia]

EU電力先物取引におけるマイナス価格制度とは?

――電力市場には4つの市場があることが分かりました。さて、実際、どの市場において、電力の価格がマイナスになるのでしょうか。

梶村氏 「まず、デリバティブ市場で電力がマイナス価格となることはありません。まあ、中長期的に電力をマイナス価格で売ろうとする供給者はいないでしょうからね。ですので、マイナス価格は、スポット市場でのみ発生します。卸電力取引所のルールの中で、需要が供給を下回った場合にのみ、発生するケースがあるのです。

 そもそも欧州の卸電力取引所のルールとして、マイナス価格という制度は2008年までありませんでした。08年までは、供給が需要を上回った場合、電力価格はゼロで、それ以下に落ちることは無かったのです。当時のヨーロッパは再生可能エネルギーがそれほど増えていなかったのにもかかわらず、発電施設が多すぎ、電力が余っていました。余った電力は市場に出回り、ゼロ価格で売買されていました。

 EU市場としては、市場参加者に、需要と供給のバランスを調整してもらいたいわけです。需要が無いときにはできるだけ発電させたくない。不要な電力を市場に出回らせたくない。また、発電がたくさん出ているときに、需要のピークを合わせたい。それを目的として、マイナス価格という制度が導入されました。

 需要が無いときに発電してもマイナス価格になってしまうので、発電側は発電しないようになる。買い手の立場から見ると、マイナス価格のときに電力を買うと、電気を買ってお金まで貰って儲かってしまうわけなので、その間に、電力の需要を生みたくなる。つまり、マイナス価格という制度は、供給を下げるという作用と、需要を上げる作用を持つことになります。

 このように、価格変動に応じて、供給側、需要側共にフレキシブルに、身軽に立ち回ることを促したかったのです」

――素朴な質問ですが、マイナス価格の時に電力を買うと、買い手は電力を得ると同時に、お金も得ちゃうわけですよね。

梶村氏 「そうです。でも、08年以前、ゼロ価格での取引の場合は、発電コストとしてのお金が消えているのかもしれないですが、マイナス価格の場合は、売り手にとっては損だが、買い手にとっては得になっているので、お金が消えていないという解釈もできますね。俯瞰的に見ると。

 しかし、この価格変動に柔軟に、機敏に対応できる供給側、需要側がいれば、需給バランスがよりよく取れてくるので、極端なマイナス価格も、あるいは価格の高騰も発生し得なくなってくるわけです。あくまでも理屈の上では」

 さて、日本でつい最近、「電力スポット価格、土日昼間は「ほぼ0円」」(日経新聞)という報道があった。日本でも同様の現象が起こりつつあるのかもしれない。しかし現状、マイナス価格にはなっていない理由は何か。左門氏は、次のように解説する。

 「まず、日本の卸市場(JEPX)は最低入札価格が0.01円/kWhと決められているので、マイナスにならないという制約がある。また、再生可能エネルギーは現状、卸市場にはあまり出ていないので、再生可能エネルギーで卸市場価格が決定されない。

 現状、日本では、再生可能エネルギーは基本的に市場取引ではなく、買取方式(FIT制度による固定価格、または小売事業者による買取)だ。だから再生可能エネルギー発電者にしても、市場でゼロ円で入札するよりは、誰かが固定価格で買ってくれる方がいい。

 ただ今後、FITが終了し、再生可能エネルギー電源が大量に発生し、買取では拾いきれず卸市場に流れ始め、最低価格0.01円に張り付く時間帯が増えたら、日本でも下限価格の見直しが行われるかもしない。いずれにせよ、マイナス価格か0.01円かは、あくまでも市場の制度上の違いによるもので、市場の値動きとしては大して違いはない」

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