なぜ起こる? 欧州、電力マイナス価格の謎に迫る欧州の電力市場の仕組み(2/6 ページ)

» 2020年05月11日 07時00分 公開
[Masataka KodukaITmedia]

電力市場の先物取引

――欧州では電力市場が完全に自由化されていること、再生可能エネルギーへのシフトが歴史的背景なのですね。さて、実際、電力の先物取引とはどういう仕組みなのでしょうか。

梶村氏 「まず、電力というのは、そもそも先物として取引される運命にあります。電力の需要に対して、電力を「同時同量」で必ず提供しなければならない。それをすべてリアルアイムでやっていたら追いつきませんから。

JPEXの説明資料を用いて電力市場の仕組みを説明する梶村さん(データ引用元:JEPX)

 先物市場は大きく分けて2種類あります。これは日本も同じです。1種類目が、中長期の先物取引である「デリバティブ市場」です。例えば、水力発電所の所有者は、数カ月先、数年先に出力可能な発電量をある程度、見積もれます。また、工場の経営者は、数カ月先、数年先、工場で最低限必要とする電力需要を見積もることができます。

 こうして、供給者と需要者が、卸電力取引所を通さず電力を取引します。この市場を『デリバティブ市場』といいます。欧州の電力取引の大部分はデリバティブ市場で賄われています。この市場では、上下する卸値のリスクを回避しながら、大きなボリュームを取引できます。

 2種類目の市場は、『スポット市場』で、中長期で見積もれなかった、短期的に発生するであろう、その他の需要を埋めるために存在します。このスポット市場は、日本もドイツも同じと思いますが、いわゆる、卸電力取引所で取引されます」

――例えば、1年後に必要となる電力を、まずデリバティブ市場で最低限確保した上で、年が明けて、1年前には予想できなかった必要な追加電力をスポット市場で埋める、ということですね。スポット市場の仕組みについて教えてください。

梶村氏 「卸電力取引所での取引には大雑把に2つのセグメントがあって、1つは前日取引の『デイアヘッド』。明日の電力を今日のうちに取引します。これは毎日行われています。翌日24時間の電力を1時間割にしてオークションにかけて取引、正午にオークションが締め切られます。

 もう1つのセグメントは、当日取引の『イントラデイ』。これも先物取引で、今日の午後の電力を、今日の午前中に取引するような市場です。最短で5分先までの電力を取引できます。これによって、更に正確に需要と供給を一致させることができるのです。

 ここまでの先物取引でも需給バランスが解決できなかった分、予想外の事態、例えば発電所が動かなくなったなどのトラブルで供給が間に合わなくなった、などのケースのリアルタイムな需給調整のための取引は『バランシングマーケット』で行われます」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.