なぜ起こる? 欧州、電力マイナス価格の謎に迫る欧州の電力市場の仕組み(5/6 ページ)

» 2020年05月11日 07時00分 公開
[Masataka KodukaITmedia]

――そうですね。なんで損失を出してまで発電所を稼働させているのでしょうか? おそらく、止めるほうがお金がかかるってことですか。

梶村氏 「はい、そう考えられています。原発とか大規模石炭火力発電は、いったんゼロまで出力を落とすと、起動するまでに時間とコストがかかってしまいます。それで止めることができない」

――このグラフを見ると、天気の良い日はいつも原発や火力発電が稼働しているために、しょっちゅうマイナス価格になっているのでは、という印象を受けますが。

梶村氏 「このケースは、ちょっと極端な例です。休日かつ、小春日和、風通しもいい、という条件がたまたま重なったのですね。でも、特に春先、こういったマイナス価格現象が発生するケースは増える傾向にありますね。ここ数年、太陽光と風力の発電量が増えてきていますからね」

――およそ、年間でどのくらいの時間、電力がマイナス価格となっているのでしょうか。

梶村氏 「19年は211時間でした。とにかく、マイナス価格は、電力の供給側と需要側が、需給バランスの変動に柔軟に対応できていないことを示しているのです。

 日本では、『ドイツは再生可能エネルギーで経済的に失敗している』というような文脈で論じられる場合がありますが、欧州電力市場におけるマイナス価格制度は、市場から、エネルギー動向に対する売り手、買い手のフレキシビリティを促すためのインセンティブとして機能していると思います。

 欧州では、太陽光や風力など再生可能エネルギーが増加傾向にあり、石炭や原子力発電に取って代わろうとしています。今後も増え続けるでしょう。しかし、太陽光や風力はしょせん、お天気任せです。その変動に合わせて、ほかの電源や、蓄電を含む需要がフレキシブルに反応することが求められるのです」

 日本で、「ドイツは再生可能エネルギーで経済的に失敗している」と語られる理由について左門さんは、「まず、普通に考えて、マイナス価格が続くと、長期的には、誰も発電所を作りたくなくなるという問題がある」と指摘する。

 「そこで、そういう事態を食い止めるための制度を別途、作らなければならない。例えば、ある一定の供給力を長期的に確保するため、比較的短期的な卸市場とは別に、供給力を事前に確保して投資回収を保証する制度の導入が始まっている。容量市場というもので、米国の一部や英国では既に導入済み、日本でも2024年からの導入が決まっている」(左門さん)

 世界中の国々が、電力システム転換の途上にあり、さまざまな制度を模索している過程にあるのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.