――なるほど、マイナス価格制度が導入されて以降、数年前と比べて、市場のフレキシビリティは増えていると思いますか。
梶村氏 「着実に増えていると思います。例えば石炭火力、原子力の出力調整も調整幅が昔より増えています。これは、事業者がノウハウを積んだこと、発電所への技術投資、政府からの一部新技術への助成金提供などの結果と考えます。また、今後は蓄電池の運用が増えたり、余剰電力を熱供給や水素生産に利用することで、よりフレキシブルに対応できることになる見込みです」
―――市場の柔軟性を高めるためにITの貢献があれば、教えてください。
梶村氏 「特に決定的なITの貢献例はないですが、例えば、スポット市場にはアグリゲーターという取引のマネジメントも存在します。彼らは毎日、上記のグラフなどをチェックして、売り手、買い手の作業を委託代行し、ベストなタイミングで電力を買い、ベストなタイミングで電力を売ることが仕事です。具体的な例としては、マイナス価格で電気を買って、揚水発電所に回して電気を蓄電する、みたいな立ち回りを行います。
3年前の調査では、ドイツに既に100社ほどのアグリゲーター企業がありました。もともと、エネルギー業界、電力業界の人々というよりも、IT系企業からの参入が多いですね。そもそも仕事内容が需給データの分析なので、データアナリストとしての手腕が問われるのです」
――正直、かつてはインターネット・ビッグデータ解析とか、オンラインマーケティングなど行っていたであろうIT系の人々がアグリゲーターとして市場に寄与している事実は、意外でした。本日はありがとうございました。
さて、梶村さんのインタビューから、既に欧州では10年以上に及ぶ電力マイナス価格の制度があること、そして、ある晴れた風通しの良い春の休日の午後、電力がマイナス価格になる事態がごく当たり前のこととして発生すること、それを食い止めようとするフレキシブルに活躍する電力市場プレーヤーたちが存在すること、が分かった。
そして、そうしたEUの電力制度に対して失敗と見る人たちもいることも分かった。いずれにせよ、世界の国々が、電力システム転換の途上にあり、さまざまな制度を模索している。マイナス価格制度の存在は、その途上における試みの一つの現象に過ぎないのだろう。
筆者の本職はITエンジニアであるが、最近ドイツでは、Revit DynamoやRhino Grasshopperなどという土木/建築ソフトウェアと気象データを用いて、個人宅の屋根や、建築やスーパーマーケットの屋上の太陽光パネルで得られる電力量のシミュレーションや敷地状況や需要パターンに合わせた最適解の自動探索の仕事が増える傾向にあり、実際、筆者もその仕事を行う機会がとても多い。
正直なところ、電力の価格に対する現状の問題点、それに対する各国政府、学界、業者の対応はとても複雑で、今回の記事で全てを書き切れない。だが、電力システム転換という観点からも、世界は大きく変わりつつある。
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