コロナ禍でも好調ワークマンの意外な死角「在庫問題」――決算から徹底分析コンビニオーナー“大反乱”の真相(4/4 ページ)

» 2020年05月29日 08時00分 公開
[北健一ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

「売れる量だけ生産」貫けるか

 人気PB商品の投入やワークマンプラスの展開で、ワークマン加盟店の平均売上は年間1億円を超えている(既存店平均年商が1億円を超えたのは19年3月期で、20年3月期の平均年商は1億3975万円)。決算の数字から推察する限り、平均的な加盟店では、売り上げと比べ在庫が著しく過剰とは考え難い。

 加盟店貸勘定は1店当たり1670万円だったので、自己資本で仕入れている分をあわせ在庫が原価ベースで2000万円(売価ベースだと2720万円)あるとしても、年5回転はするからだ。

 ただ、4シーズン制の下、春ものが売れ残ったら翌年の春まで持ち続け、夏ものが売れ残ったら翌年の夏まで、ということになると、在庫増にはつながらないか。路面店の狭いバックルームを思い浮かべながらただすと、「売れる量だけ生産し、シーズンの持ち越し在庫を無くしていくのが方針です」(財務部IRグループ)という答えが返ってきた。

 「シーズンに売り切る」には、シーズン終わりには多少の欠品が出る。それを過度に恐れれば過剰発注に陥るが、ワークマンの商品力や店舗ネットワークからすれば、多少の欠品があったとしても顧客をつなぎとめることは不可能ではあるまい。リアル店舗とネット販売との連携や発注精度向上を進めるとともにお客の理解も得つつ、「売れる量だけ生産」という基本をどこまで貫けるかが今期の課題となるだろう。

 フランチャイズでは、フランチャイズ加盟者(フランチャイジー)が在庫を抱える。自己資本を超える商品在庫は、本部(フランチャイザー)から加盟者への与信(融資)によって仕入れている形になっていることが多い。

 フランチャイズの代表格コンビニでは、おにぎりやサンドイッチ、お弁当など販売期限の短い商品が多いため、過剰発注があっても在庫がどんどん膨らむことはなく、問題は廃棄ロスとして現れる。一方ワークマンでは、在庫の大半は腐ることのない「服」だ。過剰発注が繰り返されれば「まだ売れる商品」がたまっていく。加盟店は置き場に悩むとともに、本部からの与信が膨らんでいくことになる。

 現状、「98%の商品は定価販売している」(財務部IRグループ)のは、加盟店経営にとって大きなプラスだろう。ただ、仮に過剰在庫が膨み続けるなら「売れ残りによる値引きや廃棄」が増え、その分粗利が減ってしまう。加盟店と粗利を分け合う本部の当期純利益にもマイナス要因となるのは言うまでもない。

 つまり在庫問題は、客層を大きく広げたワークマンがさらに成長するために本部と加盟店とが共に超えなければならない「ハードル」であり、同社が掲げる「本部と加盟店の信頼・協力関係」維持の試金石でもあることになる。同社もそのことを分かっている。だから今期、「在庫コントロールの適正化」という方針を掲げたのだろう。

 店舗在庫を活用したネット販売(Click&Collect通販)、需要予測発注システムの普及、伊勢崎流通センターの改装といった関連施策の結果が注目される。

著者プロフィール

北健一(きた けんいち)

ジャーナリスト。1965年広島県生まれ。経済、労働、社会問題などを取材し、JAL「骨折フライト」、郵便局の「お立ち台」など、企業と働き手との接点で起きる事件を週刊誌、専門紙などでレポート。著書に『電通事件 なぜ死ぬまで働かなければならないか』(旬報社)、『その印鑑、押してはいけない!』(朝日新聞社)ほか、共著に『委託・請負で働く人のトラブル対処法』(東洋経済新報社)ほか。第68回東京労働大学専門講座(労働法コース)で東京都知事賞を受賞。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.