社長、間違ってます! 米国で広がる「従業員アクティビズム」で会社は変わるか世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2020年06月11日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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「銃を販売しないで」と15分間のスト

 IT企業でいえば、Googleもアクティビズムに直面している。18年には、社内のネットワークで使えるフォーラムにおいて、個人攻撃やネットいじめが起きているとして、従業員ら100人が会社に対策を取るよう促すグループを立ち上げて声を上げたことが話題になった。

 また19年には前出のウェイフェアと同じく、メキシコ国境沿いで不法移民(難民)に対して組織的に嫌がらせをしていると指摘される米税関・国境警備局(CBP)とのクラウドサービスを契約しないよう求め、従業員1945人が署名を行った。同社のサービスをCBPに提供することで共犯者にはなりたくないという主張だった。

 こんなケースもある。米小売大手ウォルマートは全米に4700店舗以上を展開している超有名店だ。ただ集客力があるために、事件の現場になることもある。19年には、ミシシッピ州サウスヘイブンやテキサス州エルパソで、店舗内で銃乱射事件が起きている。これらの事件を受け、ウォルマートの従業員らが同店舗で銃を販売しないよう求めて、19年8月に15分間のストを行っている。

 日本でも従業員がセクハラやパワハラを受けるという事件は後を絶たない。今も、この瞬間も、苦しんでいて声を上げられない人たちもいるはずだ。さらには、会社のトップや経営陣の社会との関わり方が納得できないと悩んでいる人もいるかもしれない。「嫌ならやめればいいのでは?」「会社としてはいい迷惑じゃない?」という声もあるだろうが、それでは世のためにならないし、何も改善はされない。社会の一員として会社の中にいるからこそ、その会社の社会的な意義を変えさせたりもできる。

 繰り返すが、働くという行為は現代人の生き方や社会と切り離せないものだ。「従業員アクティビズム」を見ていると、金もうけだけが会社の存在意義ではないということを考えさせられる。

 これからこうしたニュースは続くに違いない。引き続き注目しておきたい。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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