米国との密な連絡、習近平主席の指導 〜数字で読み解く中国の新型コロナ白書(前編)浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(2/3 ページ)

» 2020年06月18日 16時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]

第1段階に対する筆者の分析

 白書は原因不明の患者が確認された初期から、事態を放置せず、迅速に対応していたことを主張している。「初動対応が遅れた」との国際的批判への反論だろう。

 ただし、感染症が蔓延(まんえん)し始めた年末年始に「医療現場にかん口令を敷いたこと」「市民に知らせなかったこと」については触れられていない。白書には「3密回避を指示」とあるが、武漢市ではSARSが発生したとの噂(うわさ)が広がったものの、警察が「デマ」として関係者を処分し、それ以外の注意が呼びかけられた形跡はない。

 白書は「人から人への感染」が1月19日まで確認されなかったことを根拠に、「適切に対処しながらも、一般レベルには周知しなかった」ことを正当化しているようにも読める。ただし、1月18日に武漢市に入ったハイレベル専門家グループは即座に「人から人への感染」が起きていると判断しており、その前段階で何らかの怠慢や判断の誤りがあったのは確実と言える。

第2段階:武漢のパンデミックとロックダウン(1月20日〜2月20日)

1月20日 習近平国家主席は、情報の即時公開と国際協力によって新型コロナウイルスを封じ込めるよう「重要指示」を出した。夕方にはハイレベル専門家グループが記者会見を行い、国民向けに「人から人への感染」が起きていることや感染の実態を説明。また、国家衛生健康委員会は新型コロナをSARSと同等の「乙類伝染病」に指定する。

1月22日 習近平国家主席が湖北省、武漢市での人の移動や、外部との行き来を遮断するよう指示。国家衛生健康委員会は、「新型コロナウイルスによる肺炎の診療ガイドライン(第3版)」を策定。国務院広報部門が新型コロナに関する最初の記者会見を開く。また、国家衛生健康委員会は、米国から最初の感染者が確認されたとの連絡を受ける。国家生物情報中心は、新型コロナウイルスのデータベースを開設。世界に向けてゲノム情報や変異の分析情報を公開。

1月23日 武漢市対策本部は午前2時、午前10時に空港、駅などを順次封鎖すると発表。交通運輸部は武漢市を発着する航空便や船便の運休を通知。中国科学院武漢ウイルス研究所、(初期に患者を集中的に受け入れた)武漢市金銀潭医院、湖北省CDCは、新型コロナウイルスとSARSの塩基配列が79.5%一致すると発見。

1月24日 全国から医療支援部隊364チーム、4万2600人の医療従事者、965人の公共衛生スタッフが湖北省と武漢市に入り始める。

1月25日 習近平国家主席が、湖北省での感染症封じ込めを最優先とし、一層厳格な対策を取り、国内外での感染拡大阻止を指示する。国家衛生健康委員会は旅行や家庭、公共施設、交通機関など各環境に応じた感染予防ガイドラインを発表。

1月26日 李克強首相が指導者グループの全体会議を開き、2020年の春節休暇の延長や学校の新学期の延期を決定。国家薬品監督管理局は4社の新型コロナPCR検査キットを緊急承認し、検査体制の拡大を急ぐ。

1月27日 習近平国家主席が中国共産党各組織に、庶民のリーダーとして感染症を戦うよう指示。李克強首相がパンデミック真っただ中の武漢市を視察し、医療従事者をねぎらう。国家衛生健康委員会が「新型コロナウイルスによる肺炎の診療ガイドライン(第4版)」を公表。同委員会の責任者は米国衛生当局の責任者に状況を説明。

1月28日 習近平国家主席が北京でWHOのテドロス・アダノム事務局長と会談。中国政府として情報の即時公開・透明性を確保し、責任ある行動を行うと表明する。

1月30日 国家衛生健康委員会は米国に対し、米国がWHOの専門家グループに参加することを歓迎すると伝える。米国は当日、感謝の返事をする。

1月31日 WHOが新型コロナウイルスに関し「緊急事態宣言」を発表。国家衛生健康委員会は、重症患者向けの集中治療ガイドプランを公表。

中国で確認された新型コロナ死者数の推移(白書より)

2月2日 武漢市は「確定患者」「疑いのある患者」「発熱患者」「濃厚接触者」に分類し、それぞれの診療方法を明確にする。国家衛生健康委員会は、米国衛生当局の責任者と書面で意見交換する。

2月3日 習近平国家主席は、感染症対策のさらなる強化を指示し、「早期発見、早期報告、早期隔離、早期治療」の「四早」措置を指示する。武漢市で軽症者を収容するコンテナ病院の開設準備が始まる。

2月4日 中国CDCの責任者は米国の感染症研究所の責任者と電話し、情報交換。

2月5日 習近平国家主席は、国民の生命と健康を最優先に、立法、行政、司法各機関が全力で対策を講じるよう指示。また、湖北省の医療用N95マスクの供給が初めて充足した。「新型コロナウイルスによる肺炎の診療ガイドライン(第5版)」が発表される。

2月8日 米中両国の衛生当局の責任者は、米国の専門家に、中国とWHOの専門家グループに参加するよう再び呼びかける。

2月10日 習近平国家主席は北京から、金銀潭医院、協和医院、火神山医院とビデオ会議を通じ、治療に全力を尽くすよう激励した。

2月11日 湖北省で防護服不足が解消。中国CDCは米国CDCのインフルエンザ部門の専門家と電話会議し、感染症対策情報を共有。

2月12日 習近平国家主席は、感染症対策が「最も重要な段階」にあると指摘。特に重症患者の治療水準を上げるよう指示した。

2月13日 米国の衛生当局の責任者は、中国国家衛生健康委員会の責任者に書面を送り、両国の感染症対策の協力などを議論。

2月14日 習近平主席は会議で、今回の新型コロナで露呈した国の弱点や不足を教訓に、国家の公共衛生緊急管理システムを構築するよう指示。湖北省以外の地域の1日の新規感染者数が10日連続で減少する。

2月15日 国務院の広報部門が武漢市で新型コロナ関連の記者会見を初めて開催。検査キット7種類が承認を受け、ワクチンの開発なども進展があると説明される。

2月16日 中国、ドイツ、日本、韓国、ナイジェリア、ロシア、シンガポール、米国、WHOの専門家25人が9日かけて北京、成都、広州、深セン、武漢を現地調査。

2月17日 政府が地域ごとに感染症拡大状況に応じた復興に取り組むよう求める。

2月18日 全国の1日の治癒・退院人数が初めて新規感染者数を上回る。

2月19日 習近平国家主席が会議で、感染症対策と経済再開の両立への取り組みなどをヒアリング。国家衛生健康委員会が「新型コロナウイルスによる肺炎の診療ガイドライン(試行第6版)」を公表。武漢の1日の治癒・退院者数が新規感染者数を上回る。

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