伝説的ギターの台帳に懸賞金 ギブソンが狙う「ブランド復興」世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2020年07月23日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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懸賞金は「ブランドを守る意思表示」

 そしてこの動きを見ると、これまで以上に、ブランドを守ろうとする意気込みを感じさせる。実はギブソン社は、2018年に連邦破産法11条による会社更生手続きを申請。それまで電機メーカーを買収するなど迷走を続けていたが、組織を整理し、手を広げていた楽器製造以外のビジネスを手放した。そして18年10月からギターのブランド再興を目指して再スタートを切った。

 19年4月には、これまでと違うギター製品のラインを立ち上げ、さらにギブソン社のブランドを打ち出す戦略に出ている。レスポールが人気になっていった1950年代から60年代の栄光を取り戻そうとしている。

 そんな路線で出てきたのが、59年の販売台帳を取り戻すための懸賞金である。偽物などを許さない姿勢で、ブランドを守ろうとしている。

 そして2019年、神格化されている1959年レスポールの60周年記念として、記念モデルも発表した。当時のレスポールをスキャンすることから始め、現在のテクノロジーを駆使して、オリジナルのスペックを踏襲した美しいギターを作り上げている。

 もっとも、ギブソン社の担当者ですら、販売台帳が返ってくるとは思っていないようだ。米ウォールストリート・ジャーナル紙の取材に、最高商品責任者は「もし台帳がまだこの世に存在しているなら、戻ってくるチャンスは50/50(フィフティ・フィフティ)だ」と述べている。

 台帳が出てくることに越したことはないが、ブランドを守るという意思表示が、それよりも大事なのかもしれない。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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