こういう現状を踏まえると、「即戦力になる新卒」を求める企業を、悪の組織のように目の敵にしても、なんの問題解決にもならないのは明白だ。例えば、18年2月に「朝日新聞」に掲載された「卒論ないがしろに 内定者研修」という大学教員の方による投稿があった。
企業の内定者研修があるので、ゼミの学生がまったく授業に出られない現状を指摘し、「入社後に社員を育成するのが企業の本来の姿である」としたこの投稿がSNSで拡散され、学生や教育関係の人たちから多くの共感を得た。
これまで述べたように、世界では企業が「即戦力になる新卒」を求めるのは常識だ。世界で戦う日本電産のようなグローバル企業になればなるほどその傾向は強くなる。授業の時間を奪われて内定者研修を叩きたい気持ちは痛いほど分かるが、その憎しみは企業に向けても何もならないのだ。
憎むべきは、「新卒一括採用」という富国強兵の亡霊のような制度に、われわれの社会がいまだに縛られていることによって起きているシステムエラーである。
日本電産の永守会長を「ブラック経営者だ」と叩く人たちも、必死に就職活動をしている学生たちを「海外の学生に比べてスキルがない」と批判している人たちも、実は双方とも自分たちの本当の「敵」を見誤っているのだ。
大学教育を根底から変えると宣言をしている永守会長にはぜひとも、「新卒一括採用」というシステムエラーにも手をつけていただきたい。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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