「アイリスのマスクを世界一にする」 ヒット商品ナノエアーマスクを開発した中途入社のリケジョ部長ダメ出しをされてもめげない(3/4 ページ)

» 2020年08月06日 05時00分 公開
[中西享ITmedia]

海外に向け布石

 世界のマスク市場で見ると、海外では医療用マスクは使われてきたものの、家庭用マスクはつける習慣がなかったため、ほとんど使われていなかった。しかしコロナの感染拡大によって家庭用使い捨てマスクの世界的な需要が急増し、全世界で生活必需品になりつつある。

 アイリスのマスク工場は中国の大連と蘇州の2カ所にある。しかも両工場とも中国資本との合弁ではなく、100%アイリス資本の工場だ。このため今年の1月ごろ中国から日本へのマスク輸出がストップした際も、同社の工場から日本向けに輸出ができた。

 今後は中国以外でも、米国とフランスの工場が10月から、韓国が11月からマスクを生産し、中国で蓄積した生産ノウハウを生かして、世界市場を視野に入れた生産体制を確立させようとしている。

 アイリスの工場は、稼働を考える上で、常に3割ほど余裕をもって建てられている。このため、増産が必要になった場合でも機械さえ持ち込めば生産がスタートできる機動的な体制を組むことが可能だという。

phot フル稼働を続けている中国・大連工場のマスク生産ライン

性格に合った社風

 岸部長はアイリス入社前、夫と同じ化学関連の会社に勤務していた。しかし、この会社の取扱商品を取り巻く環境が悪化し、風評被害が発生。将来の家計のリスクヘッジのために01年に転職を決断し、アイリスに中途入社した。

 理由は、自宅からは遠かったものの、宮城県内で化学系技術者の正社員の募集をしているメーカーの中では一番給料が高かったためだという。その当時アイリスはまだ事業規模も今ほどには大きくなかった。14年には能力を買われて、ヘルスケア事業部の部長に抜擢(ばってき)された。

 もともと研究職だっただけにいきなり部長という管理職に抜擢されるのは異例だったという。経営数値の読み方を覚えるなど、初めての経験に最初は戸惑った。だが新しいことに前向きに取り組む姿勢で乗り切った。アイリスの社風の好きな所を聞くと「変化への対応力」と答える。「常に周囲の環境を観察し、ニオイを感じて商品開発ができる。変わることが大好きな会社なので、私の性格と合っているのかもしれない」と笑う。

 同社の製品は大きく分けて、ペット用品や収納品、調理用品など日用品、ハード・園芸用品とマスクも含めたホーム事業部と、家電事業部とに分かれている。面白いのは、ホーム事業部ならばペット用品、日用品など、どの商品を開発してもよく、営業も家電・ホーム事業部の商品全てを担当する。

 つまり、よくある狭い分野だけ担当する「タコつぼ型経営」を避けて、幅広く担当させる仕組みを採用しているのだ。それだけに隣の仕事を見ることができ、場合によっては互いに協力して問題解決に取り組む場合もあるという。

 ボーナスとは別の決算賞与は、年間の利益を、主任以上の社員に利益貢献度に応じて分配する制度になっていて、結果に応じて報酬がもらえる給与体系になっている。

「『金メダル』がほしい」

 多くのヒット商品を開発してきた岸部長は「年間を通して社内の業績に貢献した人がもらえるメダルのうち、『銀』と『銅』はもらったが、今度は(最も貢献した社員に授与される)『金メダル』がほしい」と、あくまでどん欲だ。

 「世界一」を狙う岸部長にとって、日本国内での首位には届きそうだ。グローバルでのマスク生産でもトップに到達できれば、文字通りマスク市場で「世界一」になれるわけで、夢の実現にも手が届きそうだ。

phot アイリスの社風の好きな所を岸部長に聞くと「変化への対応力」と答えた(同社のWebサイトより)

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