新型コロナウイルスが社会に影響を与える中、いち早く「新しい生活様式」を見越してマスクに着目した“リケジョ”がいる。通気性が良く、花粉やウイルス飛沫などを99%カットできる使い捨て用「ナノエアーマスク」を開発したアイリスオーヤマの岸美加子ヘルスケア事業部長だ。
「アイリスのマスクを世界一にする」(生産数)との目標を掲げて、着け心地の良いマスクの開発に知恵を絞っている。「ナノエアーマスク」開発の舞台裏を聞いた。
ペット用品から家電製品まで生活関連商品を生産販売しているアイリスは、6月中旬に通気性にこだわった国産「ナノエアーマスク」の「ふつう」サイズ(7枚入り498円以下税別)を発売した。着用時の息苦しさや蒸れを緩和する特徴があり、発売するなり売り切れが続出している。「ふつう」サイズに続き、「小さめ」サイズ(同価格)も9月に発売する予定だ。
ナノエアーマスクは3層構造になっている。独自開発した特殊ナノファイバー加工の中間層を採用したことで、着用時の口元の温度上昇を従来製品よりも約半分に抑え、真夏でも快適に着用できるように工夫した。
使い捨てマスクの開発で最も苦労したこと――。それは花粉などの浮遊物を99%除去しながら、通気性を良くして息苦しくない商品を作ることだ。そのカギとなったのは「フィルターの壁」だった。フィルターの目を粗くすると通気性は改善する一方、花粉などを通しやすくしてしまう。このため、相反する課題を同時に解決することが求められた。
フィルターの専門メーカーとアイリスとの間で繰り返し意見交換をし、花粉やウイルス飛沫などを99%除去できるナノエアーのフィルターを共同で開発。商品化にこぎつけるまでに1年近く掛かった。
生地の織り方にも外からでは見えない特徴が隠されている。エレクトロスピニング製法という特殊な織り方で作ることにより高い捕集性能と通気性を実現した。また、口元の3Dワイヤーによりマスク内の口が当たるところに適度な空間ができて息がしやすく、つけ心地もいい。
商品開発する上でぶち当たった壁は化学や食品に関するキャリアと、バイタリティーで解決してきた岸部長。上司からは「僕が手綱を締めるから君は社内で『暴れ牛』になってくれていい」とお墨付きを得ているという。
耳ひもにも独自の工夫を凝らしてある。マスクを長時間付けていると、耳ひもが当たる部分がかぶれる人がいて、最近では「マスク皮膚炎」とも呼ばれている。フィルターと同じように耳ひもにおいても、克服しなければならない課題が出てきた。
かぶれをなくすためには耳ひもを緩めればよい一方、そうすると顔にフィットしなくなる。またしてもどちらを取るかを選択しなければならない「トレードオフ」という壁にぶつかった。この難題を改善しようと岸部長の頭にひらめいたのが、柔らかい包帯用生地の活用だ。包帯はフィット性が高い一方、きつくなり過ぎず、かぶれにくいからだ。マスクに包帯を使用したのは同社によれば、アイリスが初めてだという。
だが、包帯の生地は薄くてねじれやすい。このため生産現場にはねじれないよう機械を改善するなどの対処をしてもらった。ここで強みを発揮したのが、大半の部品を内製化してきたアイリスの体制だ。
今回、設備を導入した国内のマスク生産ラインの機械についても、これまで蓄積してきたノウハウを取り入れている。何事も内製化する文化が染みわたっているため、開発サイドから少々の無理難題を出しても解決してくれたという。
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