日本でも堂々リクルート 中国の“人材狩り”に切り込んだ、豪レポートの中身世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2020年08月27日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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莫大なカネを使って優秀人材を集める理由

 中国にとって、これらの人材確保作戦の裏には、「中国製造2025」という目標がある。この目標は簡単に言うと、これまで世界の工場だった中国が、イノベーションを起こせるような国に変貌するための計画、ということ。データ通信やAI(人工知能)などの分野で世界をリードすべく国を挙げて動いているのである。そこに優秀な人材は不可欠であり、その確保のために、莫大なカネを使って国を挙げて取り組んでいる。

 レポートにはこう書かれている。「こうした中国政府の取り組みは、透明性が欠如しており、広く不正行為が関わり、知的財産の搾取やスパイ行為が絡む。そして人民解放軍の近代化や人権侵害を助長することに貢献しているのである」

 日本や米国での例を見ると、中国のやっていることが立派な産業スパイ行為であることが分かる。こうした経済に絡んだ中国によるスパイ行為は最近、世界中で起きている。これまでの米国による中国スパイ活動の摘発や今回のレポートでも分かる通り、中国は諜報員や軍人だけではなく、留学生などの民間人が大学関係者や研究者などを駆使してスパイ工作を行っている。そして国家の経済を支えているような分野で先端技術や研究を盗み出そうと企てているのである。国家の力を削いでいることからも、これはもう安全保障の問題である。

 日本にはスパイ防止法が存在しないと批判されて久しい。特定秘密保護法や国家公務員の守秘義務違反などの法律は存在するものの、民間企業や教育機関などさまざまな分野の人たちがあの手この手で暗躍する現在の中国のスパイ工作には到底対処できない。スパイ防止法などの法整備がなされなければ、日本にかなり大勢いると見られている「スパイ」の行為をきちんと摘発し、厳しい罰則を与えることができないし、抑止もできない。

 日本のビジネスパーソンも、企業の危機管理としてこうした動きは知っておいたほうがいいだろう。さらに、広範囲に活動する中国のスパイ行為に、自らが知らぬ間に加担していないよう気を付ける必要もある。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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