一流雑誌で相次ぐコロナ論文「撤回」と、煽るメディアの罪河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)

» 2020年08月28日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

大手医学誌で相次ぐ、新型コロナ論文「撤回」

 インフォメーション=情報と、パンデミックを掛け合わせ、インフォデミック。科学の世界でも、コロナバブルといわれるほどのすさまじい数のコロナ関連論文が発表され、立て続けに「撤回」となる事態に陥っているのです。

 研究者の端くれとして補足しますと、論文撤回は研究者自身が「私の研究結果は信頼できません」と認めること。極論を言えば「フェイク」です。かつて偽データや結果の偽装が問題になりましたが、まさにそれと同じことが、科学の世界で立て続けに起きていると考えてください。

 とりわけ世界中にショックを与えたのは、英ランセット誌と米ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌という超一流の医学雑誌で、同時に「コロナの治療薬」に関する論文が撤回された“事件”です。

ランセットは世界的によく知られた医学雑誌(写真:ロイター)

 両誌はいずれも歴史あるジャーナル。「ランセットに論文が掲載された!」というだけで研究者の価値が高まるほどです。ランセットを発行するのはオランダの国際的な学術出版社のエルゼビアで、日本を含め、世界中に拠点があります。その信頼の高さから、掲載された研究結果を即座に「現場で生かそう」という動きにつながる、かなり影響力があるジャーナルです。

 その権威あるジャーナルに何があったのか? 具体的にお話しましょう。

 撤回された論文は、どちらも「新型コロナ治療薬」に関する研究でした。

 ところが掲載された当初から、分析結果に多くの研究者たちから疑問の声が上がりました。複数のサイトがランセットの論文の問題を取り上げ、研究者たちから公開質問状が提出されたのです。

 そこで論文の論拠となっている「感染者の生データ」をジャーナル側が求めたところ、データの提出を拒否。「生データを確認できなければ研究結果の信ぴょう性が保たれない」とし、著者4人中3人が論文の撤回に同意。すでに掲載直後から、世界保健機関(WHO)が論文の分析結果を踏まえて臨床試験の停止を一時決めるなど動き出していたので、かなり大きな騒動になったと伝えられています。

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