一流雑誌で相次ぐコロナ論文「撤回」と、煽るメディアの罪河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)

» 2020年08月28日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

 3月初旬の「トイレットペーパー騒動」に始まり、3週間前の「うがい薬買い占め騒動」まで、情報発信の仕方が問われる“事件”が後を絶ちません。

 すでにアチコチで批判されているので多くは書きませんが、吉村大阪府知事の「うそのような本当の話」会見は極めて危険でした。私はたまたま生中継をテレビで見ていて、とっさに「妙な事件がおきなきゃいいけれど……」と心配になったほど。なんせ、うがい薬の使いすぎはよろしくないし、間違った使い方をすれば副作用もおこります。

 そもそもアカデミックの世界とメディアの世界は水と油です。科学も含めた学問は単純には白黒つけられないものであるのに対し、メディアは複雑な話を嫌います。白か黒かにこだわり、刺激的に煽るのがマスコミであり、その刺激的な言葉だけが人々の記憶に残ります。

新型コロナを巡って、真偽不明の情報があふれている(写真提供:ゲッティイメージズ)

 ですから、どんなに専門家が研究結果にエクスキューズをつけても、聞いている人には届かない。人は見えるものを見るのではなく、見たいものを見る。聞こえることを聞くのではなく、聞きたいことを聞く。ですから、新型コロナ感染を皆が恐れている状況下での緊急記者会見は、慎重のうえに慎重を期さねばならなかった。

 それなのに残念ながら、例の記者会見にはそれがありませんでした。科学への過信と感染拡大をどうにかして抑えたい欲望が、「うそのような本当の話」というエキサイティングな発言につながってしまったのでしょう。

 ……と、「多くは書きません」といいながら、結構あれこれ書いてしまいましたが、問題はメディアの側にだけあるのではなく、研究者側にもあります。実際、コロナ禍で好んで使われている「科学的根拠」の信頼が揺らぐ事件が、科学の世界で相次いで発生し、“インフォデミック”と揶揄(やゆ)されています。

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