とはいえ、ファーウェイを排除しても、米国の通信機器企業が利益を増やせるわけではない。米国には5Gインフラを引っ張る世界的な企業がないからだ。近代において、新たなテクノロジーで米国がトップになっていないのは、5Gが初めてである。そして米国企業はすでに、インフラよりも、5Gを使ったデバイスやソフトなどの開発に注力していると言われている。米国土安全保障省のサイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)のクリストファー・クレブス長官は「5Gは25年ぶりに世界が経験する最も重大なインフラ事業」だとし、クラウドコンピューティングやオートメーション、AIの未来などに不可欠なものだと語る。
そこで米政府関係者は「実は政府としては、ファーウェイのライバル企業であるノキアやエリクソンなどに融資をするなどして、機器の価格をファーウェイの水準に下げるよう促そうという意見もあった」そうだ。だが結局は、ファーウェイが5Gでも将来的に動きが制限される可能性があり、シェア2位のエリクソンが台頭しそうだとこの関係者は述べている。
エリクソンはファーウェイと米国の衝突が始まってから、米政府のアドバイスも受けながら、米国内の通信大手ベライゾンやAT&T、Tモバイルと通信機器などの契約を結んでいる。エリクソンは5Gで重要となる高速接続を可能にするマッシブMIMO(マイモ)技術を提供し、需要も高い。実はこの技術はファーウェイも提供しているが、それには高品質の半導体が不可欠であり、米政府がファーウェイに対して半導体の輸出制限を強化したことで今後、品質を保てるかどうかが疑問視されている。
中国政府は半導体受託生産の国内最大手である中芯国際集成電路製造(SMIC)に22億ドルの資金援助をするなど、米国に依存しない半導体の生産を後押ししているが、技術力はまだ及ばない。どれだけカネを積んでも、半導体製造に不可欠な、経験を重ねた非常に技術力の高い人材はそう集まらないからだ。SMICは米国側に引き続きファーウェイと取引できるよう申請していることが分かっているが、許可を得るのは簡単ではない。つまり、今後はさらにエリクソンが優勢になる可能性がある。
そして今、そんな5G競争で存在感を見せ始めているのが、韓国のサムスン電子である。
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