完全無借金だったサイゼリヤがコロナ禍で下した決断 すかいらーくとの違いとは決算書を比較(3/4 ページ)

» 2020年09月24日 05時00分 公開
[中野 裕哲ITmedia]

貸借対照表から見えるもの

 次に、貸借対照表に目を移してみます。飲食店は現金(今ではキャッシュレス決済も含みます)商売であり、売掛金の回収などの問題は生じません。そのため、債権回収に要する期間などはあまり意味のない数字です。業種によっては、数字自体が出せたとしても、その数字に意味がほとんどないということもあります。やみくもに数字を比較するのではなく、事業の性質を理解したうえで数字を比較することが重要です。

 チェックするポイントとしては、負債部分になります。上場企業の負債となると、引当金を始めいろいろな科目が計上されています。今回は、借入金に注目してみます。

すかいらーくHDとサイゼリヤの借入金と営業活動によるキャッシュフロー

 サイゼリヤの貸借対照表を見ていると、1つ気付くことがあります。それは、借入金がないことです(詳細は後述しますが、新型コロナウイルスの影響により、7月に発表した第3四半期決算では短期借入金を計上しています)。この規模の企業で完全に無借金というのは、相当に財務が健全な証です。

 ちなみに、「実質無借金」という言葉があります。借入金はあっても、それを上回る現金預金があって、いつでも借入金を返済できる状態にあることです。一方、サイゼリヤのようにそもそも借入金がない状態を「完全無借金」といって区別しています。実質無借金の企業は多いですが、完全無借金となるとそう多くはないでしょう。

 完全無借金経営を行ってきた企業が融資を受けるということは、相当な方針転換です。それだけ新型コロナウイルスの影響が長引くことを懸念しているのです。20年5月期の第3四半期の決算書には、短期借入金として100億円が計上されています。

 債務償還年数は、貸借対照表上の借入金の合計を営業活動によるキャッシュフローで割って計算するものです。今ある借入金を返そうとした場合、どの程度の年数で返せるのかといったことを見るのに使われる指標です。営業活動によるキャッシュフローとは、簡単にいえば本業(つまり飲食店事業)から得られているお金のだと捉えておけばよいでしょう。

 中小企業では債務償還年数は5〜7年ほどになりますので、すかいらーくの1.9年はかなり短い年数です。それだけ財務が健全なのです。サイゼリヤは今回借り入れした100億円を加味したとしても、0.6年ですので財務は十分健全といえます。

 どのような指標にしても、新型コロナウイルスの影響が色濃く出る2020年の決算はかなりの悪化が予想されます。それでもこれだけ健全な財務状況を保っている2社であれば、数年落ち込んだとしても復活できる強さを持っているといえます。

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