菅政権の肝いり「デジタル庁」は中途半端で大丈夫か――電子国家・エストニアの教訓世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)

» 2020年09月24日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

公共サービスの99%が24時間利用可能

 エストニアは1990年代半ばから、E-ガバメント(電子政府)の構築を目指してきた。当時から、国民にデジタルのID(個人識別情報)を振り分け、登録を義務付けた。そしてIDをベースに、公共サービスをデジタル化することを目指したのである。そのかいあって、現在では、公共サービスの99%は24時間365日、オンラインで利用できるようになっている。国民の3割はオンラインで投票を行うし、納税などの手続きもオンラインでできる。役所に行ったり、電話したりすることもないし、書類もない。これらのデジタル化によって、役所での手続きは大幅に軽減された。

 医者はカルテをオンラインで取り出し、警察もすぐに過去の犯歴などを調べられる。車のナンバーを参照するだけで保険に加入しているのかまで分かる。引っ越しをしても、転居届や新住所の登録などもオンラインで数分で終わるという。そうした情報はさらに蓄積され、何かのサービスに登録する際には自分の過去の情報についていちいち説明や証明をする必要はない。データベースにあるからだ。教育現場でも、エストニアの学校の85%はオンライン対応ができている。

 エストニアでは、結婚と離婚、不動産購入以外は全てオンラインで完結するといわれていた。エストニアはそもそも、意識としては、デジタル化を標ぼうしてデジタル化を進めたのではなく、行政や国民の負担を減らすという目標が先にあったという。

 公共サービスといえども、民間とのつながりがスムーズにいかなければ、デジタル化も意味がない。例えば、会社設立に必要な手続きなどはオンライン上で20分以内に完了するという。さまざまな官民の情報をやりとりできる管理システムは「X-Road」と呼ばれ、このシステム構築がエストニアのデジタル化社会の基盤となっている。そこから、Eコマースやネット上の銀行サービスなどにも広がっていった。ただデータは、セキュリティ対策で分散して管理されているらしい。

 一方、専門家の中には、エストニアの成功を他国は参考にすべきではないという人もいる。というのも、エストニアは人口130万人の国で、行政などのシステムもあまり複雑さはなく、規模が小さいためにシステムを構築しやすい。事実、17年にIDシステムに脆弱性が発見された際には、政府が直ちにその事実を国民に知らせ、国民は指示通りにIDの証明書を登録し直した。人口の多い国では、そうした対応はなかなか難しいだろう。

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