ビジネスパーソンのためのSaaS KPI入門SaaSビジネスで用いられるARR、ARPU あなたは説明できますか?(4/5 ページ)

» 2020年12月04日 05時00分 公開
[早船明夫ITmedia]

疑問3――最重要指標 ARRを理解する上で大事なことは?

A ARRの内訳、契約者数(または契約ID数)とARPUを押さえる

 プロダクト形態によって若干呼び方が異なることがありますが、基本的には、ARRは「契約数 × 単価」に分解が可能です。freeeでは、「有料課金ユーザー企業数」と「ARPU(Average Revenue per User)」(アープと呼ばれる)でARRの内訳を示しています。

freeeの有料課金ユーザー企業数とARPUの推移(freee決算資料より)

 上記の直近のfreee資料をみると、「有料課金ユーザー企業数」が、昨対比で39%増と顧客数ベースが大幅に伸びていることが分かります。単価である「ARPU」も7.2%の伸びを見せているものの、「個人・Smallセグメント顧客」という比較的単価が低い顧客の増加等により、直近四半期においては成長が緩やかになった、ということが説明されています。

 このように「ARRが伸びている」ということだけでなく、「何が要因で伸びたか」や「今後のARRを伸ばす戦略」を理解する上で、「契約者数」「ARPU」といった内訳を時系列で見ていくことが正しいSaaSビジネスの大枠を見ていく上で欠かせません。

疑問4――その他に大事な指標は?

A サービスの定着度を示す、解約率(Churn Rate)を押さえる

 ストック型のサブスクリプションビジネスが伸びていくには、解約率が一定の水準以下であることが重要です。栓が抜けていれば、蛇口を全開にしていても風呂にお湯がたまらないように、営業力のある会社が新規顧客獲得を積み上げても、1年経たずしてサービスが解約されることが多ければ、高いARR成長率を達成することはできません。

 SaaSビジネスで用いられる解約率は複数ありますが、前月末時点の契約額が当月末にどの程度解約されたかを示す、月次ベースの「Gross Churn Rate」を用いて考えることが基本です(このほかにも、既存顧客のアップセルなどを加味する「Net Churn Rate」などの概念もありますが、ここでは触れません)。

 解約率(Churn Rate)は、顧客サイズによって許容できる水準が異なり、通常顧客規模が小さい程解約率が高くなる傾向にあります。

※顧客ごとの解約率の参考水準は以下サイトなどに詳しい。「The Innovator's Dilemma for SaaS Startups

 freeeでも月次の12カ月平均解約率(月次1.6%)の推移が示されており、時系列で解約率が下がっていることから、サービスの改善やカスタマーサクセスの強化などに取り組みユーザーの定着度を向上させてきたことが分かります。

freeeの解約率の推移(freee決算資料より)

freee原さんの視点

 SaaSは売上が積み上がっていく安定的なビジネスだ、といわれていますが、これは解約率が低いことが前提です。そのため、顧客規模などに応じた適切な解約率で推移しているかが重要となります。また、freeeがサービス提供している会計ソフトの領域では、確定申告時期の直後には一時的に解約が増えるなどの特殊な季節性もあります。短期的な変動をお伝えするのではなく、継続的に解約率を低くできている点が伝わるよう開示を行っています。

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