大赤字のANA救済 JALとの統合は「最悪のシナリオ」磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(2/3 ページ)

» 2020年12月08日 05時00分 公開
[磯山友幸ITmedia]

年収は3割減 希望退職募集のANA

 ANAの経営は大丈夫なのか。

 9月末現在の「利益剰余金」、いわゆる「内部留保」は3612億円と、半年で1896億円減少した。ただし株主資本は8791億円あり、今期の赤字が多少膨らんでも債務超過に転落する懸念は薄い。

 問題は2022年3月期以降だ。仮にワクチンの普及などで新型コロナのまん延が早期に終息したとしても、人々の行動が元通りに戻るかどうか。特に不要不急と見ることもできる観光客などの航空需要が新型コロナ前に一気に戻るとは考えにくい。航空業界のような装置産業では売上高が1割減っても赤字になりかねない構造で、そうした中で黒字化に向けて、大幅なリストラが行われることになるだろう。

 すでにANAでは、大型機を中心に経年機35機を退役させる一方で、導入が決まっているエアバスA380型機やボーイング777Xの受領を遅らせることを決めている。利用者減に対応して利用機材を小型化することで燃料費を圧縮することもできる。2021年3月期に、変動費を3910億円圧縮、人件費など固定費も1520億円減らす計画だ。

phot 2021年3月期に、変動費を3910億円圧縮、人件費など固定費も1520億円減らす計画(ANAホールディングスのWebサイトより)

 11月30日、ANAホールディングス傘下の全日本空輸が従業員組合に提示していた「冬のボーナスゼロ」を受け入れたことが明らかになった。一般職の基本給の削減については労使協議が続いているが、合意すれば、年収は3割減になるという。ANAは希望退職も募る方針を示しているが、基本的に給与の大幅減額などで雇用を維持する方針を示している。家電量販店のノジマや高級スーパーの成城石井、各地の自治体などの社外に12月までに約10社100人程度を出向させるほか、来春には受け入れ先を拡大して400人以上の社員を出向させるとしている。2022年3月期にはさらに2500億円の固定費削減を見込む。

phot ANAのA380-800「FLYING HONU」1号機(JA381A)(写真はWikipediaより)

 来年度以降、顧客がどれぐらいの水準まで戻るか。ANAでは2021年3月末時点で国内旅客がコロナ前の7割の水準、国際旅客が5割の水準に戻ることを、前提条件にしている。顧客数の戻りがこれよりも鈍くなれば、2020年3月期の5100億円という赤字額がさらに膨らむ可能性がある。また、2021年3月期に黒字化を目指すには、さらに大幅なリストラに踏み切らざるを得なくなる可能性が強まる。欧州のルフトハンザやエールフランスKLMは、すでに従業員の2割に当たる人員削減を打ち出している。ANAが希望退職だけで危機を乗り切れるかどうかは予断を許さない。

phot 従業員の2割に当たる人員削減を打ち出しているエールフランスKLMのベンジャミン・スミスCEO(Wikipediaより)

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