ナイキ、DHCも標的に! 「不買運動」はホントのところ、どれほど効果があるのかスピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2020年12月22日 09時10分 公開
[窪田順生ITmedia]
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ギスギスした世の中は続く

 こういう話を聞くと、SNSでの「不買運動」の呼びかけにビクビクしている企業の担当者などは胸をほっとなで下ろすかもしれない。しかし、一方で、このようなトレンドがあまりに強くなっていくと、別の社会的なリスクが生まれる。

 SNSの「不買運動」など恐るに足りん、ということになれば、アパグループの元谷外志雄代表やDHCの吉田会長のように、自分の思想信条をもっと全面に押し出す企業経営者が増えていく。つまり、「イデオロギーのクセの強い企業」がちまたに溢れる社会になっていく恐れがあるのだ。

 これまで日本の企業経営者は、「政治的中立」をキープするのがお約束だった。スポーツ選手や芸能人と同じく、政治や社会を語る経営者は「異端」とされ、ひどい場合は「経営者は経営だけやっていろ」と袋だたきにされることもあった。例えば、今回、吉田会長に名指しで攻撃されたサントリーも30年以上前、佐治敬三社長(当時)が、首都機能移転の議論が行われていた時期に東北をディスったことで猛烈な批判を浴び、不買運動まで起きて謝罪へと追い込まれている。

 しかし、大坂さんや、政治に声をあげるような芸能人が増えているように、DHCやアパホテルのように「イデオロギーのクセの強い企業」も散見されるようになってきた。ナイキのようにポリシーを明確にすれば、多くの「敵」をつくるが、そのぶん、多くの「ファン」も獲得するという捨て身のマーケティングも増えてきた。その最たる人物が、選挙に敗れたにもかかわらず、今も熱烈な支持者がいるトランプ大統領である。

 ということは、2021年は今年以上に、「分断」が生まれるということだ。あいつが悪い、こいつは間違っている――。差別主義者だ、デマを撒(ま)き散らしている――。といった罵(ののし)り合いが「イデオロギーのクセの強い企業」を中心に盛り上がることで、確信犯的にブランディングやマーケティングに活用するナイキのような企業も増えていくかもしれない。

 来年もギスギスした世の中は、さらに続いていきそうだ。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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