変革の財務経理

日立、ソニー、IHI……なぜ、企業はコングロマリット化するのか日立建機の売却検討報道から考える(2/3 ページ)

» 2021年01月27日 19時06分 公開
GLOBIS知見録

企業合併による企業価値の変化

 数字で考えてみよう。

 企業価値が50億円の企業A社とB社があるとする。両社ともそれぞれ将来倒産する可能性が50%あるとしよう。従って、それぞれの企業の価値は、50億円となる可能性が50%、ゼロの可能性が50%となる。A社の株を100%所有する株主にとっての期待企業価値は25億円(50億円×50%+0億円×50%)となる。

phot 以下、資料は筆者作成

 A社が別の全く異なる事業を手掛けているB社と合併したとする。旧A社の株主は合併によって新生A+B社の50%を所有することになる。A社とB社は全く別の事業を行っているので、同時に倒産する可能性は低く、A社・B社とも生き残る確率は25%、A社のみ生き残る可能性は25%、B社だけ生き残る可能性は25%、そして両社とも同時に倒産する可能性は25%となる。

 旧A社の株主にとっての新生A+B社の期待企業価値は25億円{(100億円×25%+50億円×25%+50億円×25%+0億円×25%)×50%}と合併前と変わらないが、50億円×50%+0億円×50%ではなく、 50億円×25%+25億円×25%+25億円×25%+0億円×25%と企業価値の変動幅が減少する。これが分散によるリスクの削減効果である。ただし、お互いに関連のない事業であることから、シナジーは生まれず、従って企業価値は増加しない。

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 企業価値は事業から生まれるフリー・キャシュフロー(FCF)をそのリスクの大きさに見合った割引率(WACC)で割り戻して計算される。例えば、以下のような3社があったとする:

X 社の企業価値=FCFx(100億円)÷WACCx(10%)=1000億円

Y 社の企業価値=FCFy(75億円)÷WACCy(7.5%)=1000億円

Z 社の企業価値=FCFz(50億円)÷WACCz(5%)=1000億円

 これらの企業が合併したとする。

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(1)これらの企業が合併したが、お互いに事業面で何も関連性が無い場合は、単純に企業価値を足し合わせただけで、増加も減少もしない。

(2)業間の関連性が強く、合併によって弱点が補強され、強みが更に強化され、従来のFCFに加えて新たなFCF37.5億円が生み出された(これをシナジーと呼ぶ)とすると、増加した500億円がコングロマリット・プレミアムである。

(3)事業間の関連が薄く、更に業績の悪い事業に良い事業から資金が流用されることで効率の悪い事業が温存され、結果としてFCFが37.5億円無駄に消費されたとすると、減少した500億円がコングロマリット・ディスカウントである。実際に資金の流用がなくとも、3事業の関連性が不透明でかつ情報開示が十分でない場合、市場はこのようなコングロマリット・ディスカウントの可能性を疑い、株式市場でつく株価は本来の株価を下回ることになる。

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