「納豆」はキムチの牙城を崩せるか “日本食”が脅威にさらされているワケスピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2021年02月02日 09時30分 公開
[窪田順生ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5       

「日本文化」を世界に広める“戦略”が必要

 「ざまあみろ、日本にやっていたパクリが因果応報でまわってきたのだ」と胸がスカッとしている人も多いかもしれないが、笑ってばかりもいられない。同じことが、日本の納豆でも起きるかもしれないのだ。

 実は中国の雲南省や貴州省には、「生豆豉」という食品がある。これは大豆を発酵させたもので、ネバネバな感じなどは、日本の納豆とよく似ている。また、雲南省と国境を挟んだミャンマーにも「ペーポー」という日本のようにネバネバと糸をひく納豆がある。他にも色々な国で似たような大豆の発酵食品は存在しているのだ。

 それはつまり、今、中国が韓国の「キムチ」に対して行っている「文化泥棒」も、理屈的には、日本の「納豆」に対しても行うことができるということだ。

 日本人はどうしても自国の文化に対しては過度に自信があるので、「日本の良さに気付きさえすれば、黙っていても外国人が勝手に支持してくれる」みたいな思い込みが強い。

 テレビが親日外国人ばかりを登場させて、「日本ほどすごい国はない」とか「生まれ変わったら日本人になりたい」といった社交辞令みたいな話ばかりを流してきた弊害だが、実は世界は広くて、日本人、中国人、韓国人の細かな違いが分からないような人たちが数十億人もいる。

 そして、どの国でも、自国が有利になるように歴史をねじ曲げたり、相手を悪者にしたりという情報戦が当たり前に繰り広げられている。

 そういう生き馬の目を抜く世界で、日本は「和食」を世界に広めていくという。ならば、もっと強かに、もっと戦略的にやらなくてはいけないということは言うまでもない。

 日本の伝統的な漬物の生産量が、キムチよりも少なくなってしまっている、という厳しい現実がすべて物語っているが、「日本食なんだから日本人が食べていればいいんだ」という閉じた発想では、文化というのは衰退していく。コロナで勢いのある今だからこそ、納豆を「世界のnatto」として文化輸出するための取り組みが必要なのではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


前のページへ 1|2|3|4|5       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.