この商品は、社内の研究開発者が、友人と花見をしたときに「ビールが好きなんだけど、体形が気になるから最初の1杯だけにする」という何気ない言葉を聞いたことがきっかけで開発に至ったという。しかし、開発には約5年を要した。
発泡酒や新ジャンルにはある「糖質ゼロ」商品がビールになかったのは、技術的なハードルが高いからだ。ビールには、麦芽使用比率50%以上という基準がある。麦芽の量が増えるほど糖質の量も増えるため、糖質をカットすることも難しくなる。同社では、350回以上の試作を経て、新たな糖質カット製法を開発。その技術を、一番搾りの伝統である「一番搾り麦汁」のみを使用する製法と組み合わせることで、コクのある味わいと糖質ゼロを両立させるに至ったという。
当初は糖質ゼロのビールを「一番搾り」ではなく、新ブランドで展開することも検討した。だが、「一番搾りブランドには、これまで積み上げてきた信頼感、おいしさのイメージがある。絶対に失敗できないプレッシャーにもなるが、幅広いユーザーに喜んでもらうために、一番搾りの新商品としておいしさを打ち出すことにした」(北島氏)という。
「一番搾り 糖質ゼロ」がブランド全体の販売を大きく伸ばすことになった理由の一つに、外部からのユーザー流入がある。つまり、一番搾り本体から糖質ゼロに切り替えるケースよりも、発泡酒や新ジャンル、他ブランドのビール類を飲んでいた人が購入することが多いという。その結果、新商品の販売量が上乗せされる形でブランドが成長した。
特に、発泡酒と新ジャンルからの流入が全体の7割。では、もともと糖質オフの商品を飲んでいた人が購入したのかというと、それだけではないようだ。発泡酒・新ジャンルから流入した購入者のうち、以前も糖質オフ・ゼロ商品を飲んでいたのは4割ほどにとどまるという。つまり、幅広いビール類ユーザーが手に取っているといえる。
「ビール類ユーザーの中でも、健康に気遣いたいという人は多い。『ビールで糖質ゼロなら』と手に取ってもらえたのでは。まだまだポテンシャルがあることが分かった」と北島氏は説明する。コロナ禍による外出自粛で健康に意識が向くようになった人が増えたことも追い風となり、潜在的なニーズを掘り起こすことにつながった。
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