「世界一勤勉」なのに、なぜ日本人の給与は低いのかスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2021年03月09日 09時46分 公開
[窪田順生ITmedia]

失業者を受け入れる雇用の受け皿

 今でこそ業者に接待されてうそばかりついているイメージしかない官僚だが、昭和の官僚はもっと勤勉で、戦後の焼け野原から経済復興させるため、寝る間も惜しんで産業政策を考えた。そんな真面目一筋の官僚たちが高度経済成長期の切り札として生み出したのが、1963年に制定された中小企業基本法である。

 当時はまだ雇用も不安定で、景気が悪くなると大企業をクビにされる労働者がたくさんいた。そういう失業者を受け入れる雇用の受け皿をじゃんじゃんつくることが、官僚たちに課せられたミッションだったのだ。そこで目をつけたのが中小零細企業である。

 中小零細企業が社会にあふれれば、失業者対策にもなる。地域経済も循環するので良いことづくしということで、とにかく数を増やすべきだと税制や助成金などさまざまな支援をそろえてきた。今、国が2030年のガソリン車廃止でEVをとにかく普及させたいので補助金を引き上げているが、ノリとしてはあれと同じだ。

 そんな手厚く保護されている領域があれば当然、それを活用しようという人たちが集まってくるので、中小企業・零細企業は右肩あがりで増えていく。この保護政策は、高度経済成長期が終わっても見直しされることなく続けられた。勤勉で真面目な人たちは一度定められた路線は過剰なまでにしっかりと守る。頭がカチカチなので、「中小企業が増えれば日本経済が成長する」という大前提が時代に合っているのかと検証することなく、ただ前任者たちが敷いたレールを進んでいった。

 そうして気がつけば、50年以上も経過して、日本は99.7%が中小零細企業という産業構造がビタッと定着して、他の先進国が引くほどの低賃金国家ができあがったというわけだ。

日本の全企業数のうち、中小企業は99.7%(出典:中小企業基盤整備機構)

 当たり前の話だが、高度経済成長期にできた中小企業政策を令和の今まで頑なに守り通してきたエリート官僚の皆さんは「賃金を低くしてやる」などと思ってやっていたわけではない。国家公務員一種試験をパスした優秀な頭脳と、国民の役にたちたいという真面目さ、自分が属する役所の省益を守らなくてはという組織人の勤勉さがゆえ、ハタから見れば「過剰」に見える保護政策を続けてきただけなのだ。

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